ブックワームのひとりごと

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飛行機バカたちの暮らしにも戦争の終わりがやってくる―須賀しのぶ『天翔けるバカ We Are The Champions』

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天翔けるバカ We Are The Champions (集英社コバルト文庫)

 

あらすじ・概要

航空機で戦うリックたち。戦争は徐々に激化し、騎士道精神が生き残る空軍にも暗い影を落とし始めていた。そんな中、リックの元婚約者でロードの兄に嫁いだレイチェルからから「従軍看護婦になった義妹を説得してほしい」と便りが来る。ロードとリックは慌てて彼女の職場に駆けつける。

 

天にしか居場所がなかった男たちの結末

結構あっけなく終わってしまったんですが、飛行機バカの話が戦争の終結で終わるのは悪くないかなと思います。

 

須賀しのぶの書く男性ってまったく女性に都合よくないし、むしろホモソーシャルなノリであることのほうがほとんどなんですが、それでも、いやだからこそ魅力的なのがすごいです。

ホモソーシャルはろくでもないけど、『天翔けるバカ』のような物語に仕立て上げてしまうと魅力的になってしまいます。もちろん作者もそれについては自覚しているようで、作中にそういうホモソーシャルを否定する言葉がちゃんと出て来ます。

美しい男の友情の影で泣いている人がいる、というのが生々しくて「小説が上手い」という気分になります。

 

メインキャラや印象的な敵役キャラの死のシーンが多く、読み終わってしみじみ考えこんでしまいました。生き残ってほしかったですが、彼らがこれ以外の生き方を選べたのかと言われると「難しいだろうね」って答えてしまいそうです。

地上ではなく空に居場所がある人間たち。彼らの刹那的な友情と騎士道精神。戦争は終わるべきですが、それでもキャラクターたちが空を飛べなくなるのは「悲しい」と思いました。

 

天へのロマンとそれと並行する残酷さやエゴが描かれた作品でした。ハッピーになれるというより、しみじみ噛みしめるような読後感です。