ブックワームのひとりごと

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『深夜食堂』(実写映画版)松岡錠司 感想

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映画「深夜食堂」

 

あらすじ・概要

深夜に店を開く深夜食堂。そこにやってくる人たちは、やくざ、愛人、身寄りのない女性など、何かしら事情を抱えている。店主は、客同士の会話を見守り、ときにおせっかいをして、深夜食堂を運営していく。

 

ひとつの食堂をめぐる群像劇

いい意味で予想を裏切ってくれた作品でした。おいしそうな食べ物映画というよりは、ひとつの店をめぐる群像劇です。

深夜食堂に集う人々はみな訳ありで、大きな声では言えない事情を抱えています。「大きな声では言えない事情」を話せる場所として店があるのがよかったです。その事情はときに人にけなされ否定される事情です。しかし食堂では、非難はされるが拒絶はされない。その優しさがよかったです。

 

舞台が東京であることを最大限利用した作品で、はとバスやハロウィンの騒ぎなど、東京らしい題材がそこかしこに挿入されています。登場人物にも新潟や東北など、東日本から東京に出てきた人たちが多いです。

店主に多くの個性を持たせず、しかし親切なキャラクターなのだろうと推測できる塩梅もよかったです。

 

終盤は東日本大震災が大きなテーマになってきます。恋をする男性がいるのですが、その態度は依存的でどう見ても幸せになれそうにはありません。話が進むにつれ、彼は東日本大震災の被災者であり、親しい人を失ったことに対する逃避として恋をしているのがわかってきます。

深夜食堂の店主も含めて、彼の深い悲しみを癒すことはできません。しかし悲しみを理由に女性に言い寄っていいわけでもありません。

救われた、とはっきり言えない終わり方ですが、深い悲しみを背負って生きている人は、実はたくさんいるのだろうな、と考えてしまうエピソードでした。

 

思ったよりも日本社会を反映した作品でした。最初からそういう要素があると教わって見たら印象が変わってしまっていただろうので、偶然見てよかったです。