あらすじ・概要
阪神大震災を経験した精神科医、安克昌。彼は阪神大震災とメンタルヘルスの問題について語る。災害直後の人々の精神状態から、精神疾患の人たちの病状悪化や苦悩、復興期に取り残される人たちのことなど、経験者ならではの視点で表現する。災害と心の関係を知るための本。
阪神大震災を見た精神科医の記録
ほとんどがエッセイや手記のような語り口で、専門的な話は巻末あたりだけです。メンタルヘルスについて詳しくない人にもわかりやすいと思います。
当事者としては、双極性障害の人の災害時期の躁転について書かれているのが興味深かったです。やっぱり災害が起こると躁転する人が多いんですね。極限状態になると体が躁の方向へ持っていかれてしまうのでしょう。
被災地における自死の問題についても紹介されています。本人が自死してしまうのももちろんよくないですが、自死が家族や近所の人に与える影響も計り知れないものがあります。このあたりはテレビでやりづらい問題なので、文章で読めてよかったです。
阪神大震災の場合の「阪神」とは神戸市と大阪市の間の地域を指す言葉で、このうち大阪府に属しているのは大阪市のみです。言葉の上で「大阪から神戸」という意味でも、「阪神」というと兵庫県の領域の方が多いんです。
この作中にも大阪との温度差が出て来ます。ほうほうのていで被災地から出て来た神戸の人が、「普段通り」の大阪の姿に衝撃を受けます。誰が悪いわけでもないですが、ギャップに傷ついてしまうのが悲しかったです。
この記事を書くために著者のことを調べたら、在日韓国人三世だということがわかりました。著者の中でも、神戸の住民には、外国人が多いことが述べられています。現場ではいろいろあったのでしょうが、朝鮮人虐殺が起こらなかったことは以前の震災よりは進歩した点です。
神戸は多くの外国人が移り住んできた街で、神戸出身の著名人も外国にルーツを持つ人が多いです。日本人だけではなく、外国籍の人たちのことに言及してくれたことはよかったです。
私は、阪神大震災が発生したとき4歳でした。おぼろげに記憶があります。母が倒れて来そうなクローゼットを押さえつけていました。
被害はほとんどなかった地域ですが、それ以来、自分より背の高い家具を置けないままでいます。
表面的に復興が進んでいるように見えても、震災の心の傷は癒えていない人も多いです。復興ムードの中、心の傷を口に出せなくなってしまう人もいます。
短期的に復興を考えるのではなく、人によってはなかなか立ち直れない人もいるのだと理解するのが重要だと思いました。