このところ大学生を主人公とする小説を読むことが多く、せっかくなので面白かったものをまとめ記事にしてみました。
彼氏面する家電たちとのコメディ『家電彼氏』
大学進学をきっかけにひとり暮らしを始めた塔子。しかし家に置いてある、体重計や電子レンジ、掃除機が勝手にしゃべり始める。彼らは塔子の彼氏面をし出し、何かと塔子の私生活に口を出すようになる。塔子は個性豊かな家電たちに翻弄される毎日を送る。
ある意味人外×人間ものだと言えるのかもしれませんが、相手が家電なのでロマンチックさのかけらもありません。塔子に彼氏っぽいものができそうになると「家電に例えるとどんな感じ?」と聞くし、機能をディスると機嫌を損ねます。
それから、主人公の塔子がありがちないい子ちゃんのキャラではなく、年相応にドジだったり愚かだったり欠点があるところが愛しいです。友達に見栄を張ってしまったり失言をしたり。人間味があって好きです。
トンチキコメディとして優秀な作品でした。
大学生が死んだ幼なじみと再会『タイムカプセル浪漫紀行』
大学生で考古学を学ぶ英一は、父親の遺跡捏造事件をきっかけに苦しみ、大学を辞めようとしていた。そんな折、英一の目の前にかつての幼馴染、明日香が現れる。彼女は10年前に死んだはずだった。再会に困惑しつつも、英一は明日香と埋めたタイムカプセルを探して故郷に帰る。
まずメインの登場人物がみんないいやつで、優しいのに癒されます。英一の友人もかつての担任の先生も、本気で彼を心配し支えになってやりたいと思っているのが伝わってきます。
優しい人間同士の掛け合いも面白く、読んでいてほっこりする作品でした。
恋愛要素も、ほんのり好きだったのかな? とわかるくらいで、しつこくないところがよかったです。セクハラシーンもない。心穏やかに読めました。
コテージに集った4人の女子大生の秘密とは『誰にも言えない』
コテージに集った4人の美しい女子大生たち。この旅の主催者葵の発案によって、彼女らは順繰りに己の秘密を告白していく。容姿も富も才能も豊かな彼女らが、胸に秘めていた「誰にも言えない」過去とは……。
ドロドロ露悪的作品なんですが、よくある「女社会って怖い」という女性蔑視はぎりぎりで回避して、エンターテインメントとして楽しめる楽しい露悪として成立しています。
悪いのは彼女ら自身だけではなく、彼女らをとりまく社会もまた闇が深く、自分の都合しか考えていない人々が跋扈する場所として描かれているからでしょう。
こういう人の邪悪さを扱った作品のいいところは、自分自身の人に言えない、ネガティブな感情を投影し、ちょっと救われるところだと思うんですよね。そういう意味でこの作品は最適でした。
元恋人と偽装結婚したけどお互い未練たらたら『元カノとのじれったい偽装結婚』
不動産会社社長令息の晴(はる)は、事情があって理桜(りお)と形だけの結婚をすることになった。お互いを罵ったりけんかを売ったり、何かと対立が絶えない。しかしフたりは実は元恋人同士で、お互いに未練たらたらだった。相手が好きなふたりは偽装結婚を取り繕うため迷走し……。
ケンカップルって普段はそんなに趣味じゃないんですけど、ここまではっきりお互いの好意が読者にだだ漏れだと話は別です。
好きだからこそうまく素直になれないし、お互い「結婚」に後ろめたいところがあるから相手の気持ちを信じられなくて不安になる。その前提があるからこそ、話がもだもだしていても説得力があるんですよね。
けんかの内容自体はポンコツなんだけど、言葉の端々にお互いへの好意があるのがかわいいです。
ヒモの青年が老女画家に拾われる『極彩色の食卓』
美大を休学して女性の家を転々としていた青年、燕(つばめ)は、半分引退したような女流画家律子に拾われる。律子は掃除もできなければ炊事もできず、まったく生活力がない。燕は律子の弟子から送られてくる食材を駆使して料理を作るのだった。
まず老いた女流画家と休学中の美大生の、居候以上恋愛未満の奇妙な関係。料理を作りながら穏やかに暮らしているようで、お互いに執着を持ち始めていきます。
それでいて、心に苦しみを抱えたふたりは、少しずつ救われていきます。両親に絵を描くことを強いられ、美大に入ってから絵が描けなくなってしまった燕と、あることをきっかけに絵に黄色が使えなくなってしまった律子。ある意味で「色」を失った燕と律子が、食事をともにするうちにその「色」を取り戻していくストーリーがもう本当に最高。何百回でも読みたいですね。
ストーリー自体はエモーショナルなんですが、語り口は淡々としていて、説明しすぎないところも好きでした。細かい部分はヒントだけ与えて、想像に任せてくれるところは読者を信頼してくれているようで心地いいです。
以上です。興味があれば読んでみてください。