あらすじ・概要
聖女に選出された理由が不当であると追放されかかった聖女ヴィクトリアは、アドラスという騎士に出会う。彼は、幽霊や精霊が見えるヴィクトリアに「自分が皇子でないことを証明してほしい」と頼んだ。アドラスとともに行動しながら真実を調べるうちに、ヴィクトリアは皇位継承の問題に巻き込まれていく。
展開が早く情報を出し惜しみしない、説明が上手い
展開が早く、情報を出し惜しみしません。そして同時にキャラクターの言動が説明的になりすぎないところが上手でした。
読み始めて20%くらいで、ヴィクトリアとアドラスの倫理観の強い性格、彼らの行動理由、皇位継承のごたごたについて読者に説明し、その上ストーリーもちゃんと進んでいるという離れ業には舌を巻きました。
こういう「説明しながらストーリーも進める」というの難しいんですよね。
キャラクターの設定や性格は地味ですが、それぞれ思うところがあり、多様な人物像を描き分けているのが面白かったです。
ヴィクトリアは幽霊や精霊を見ることができますが、それ以外にチートな能力はなく、あくまで情報を収集し周囲を観察することで事件を解決します。
「先入観なく物事を観察すること」は作品の重要なテーマになっており、繰り返しそれにまつわるシーンが出て来ます。
最後に謎が解けるとともに、ヴィクトリアがなぜ真実を追求するかが語られます。世の中にはなあなあにしておいたほうがいいかもしれない情報があります。しかしヴィクトリアはヴィクトリアなりの誠意をもって真実を暴き、少しでも周囲をいい方向にしたいと思っています。
探偵役=倫理のないキャラクターとして描かれることも多いので、ヴィクトリアの倫理の高さは印象的でした。そしてストーリー上の相棒のアドラスが、彼女の価値観を受け入れているところが好きでした。
謎解き部分がすごいというほどでもありませんし、はらはらする要素の方が強いので、ミステリよりサスペンス寄りかなあと思います。
世界観とキャラクターを全力で生かしたエンターテインメントであり、主人公なりの正義を描いた、良作でした。