今日の更新は藤原辰史『トラクターの世界史』の感想です。
とあるブログで紹介されていて興味を持った本です。
書籍概要
畑を自動で耕す道具、トラクター。その発達は農業だけでなく、社会全体を変えた。各国のトラクターの歴史を振り返りつつ、トラクターが人々にどのような影響を与えたかを語る本。
印象深かったのはこの文章。
トラクターと戦車はいわば双生児であり、ジーキル博士とハイド氏のようにドッペルゲンガー(二重人格)の機械であったということができよう。
(P111)
トラクターの技術は、戦車(タンク)に転用され、常に戦争と裏表の道具だったということです。
牧歌的なイメージがあるトラクターに、そんな裏側があったんですね。
非力でも畑を耕すことができるトラクターは女性を解放する道具として期待されたのに、結局あまり寄与できず、トラクターには男性的なイメージを与えられました。
なかなか生々しい事情ですね。産業の機械化と、女性の解放はもっと掘り下げられそうです。
今は女性もトラクターに乗るから、事情が変わっていそうですが。
著者がマッチョなトラクターの歌「赤いトラクター」に「暑苦しい」とコメントを入れているのにはちょっと笑いました。
風に逆らう 俺の気持ちを
知っているのか 赤いトラクター
燃える男の 赤いトラクター
それがお前だぜ いつも仲間だぜ
(P223)
ヤンマーの宣伝用の歌だったらしいんですけど、今流したら男性からもツッコミが入りそうな内容ですね。ここまで来ると面白くなってきます。
学術的な信憑性を保ちつつ、語り口にどこかユーモアがあるのがよかったです。著者、文章上手いなあ。何気ない比喩が文学的に感じます。
ただ、内容としてはお堅く、結構難しいので、高校や大学で世界史の授業を取ったことがない人は読むのに難航するかもしれません。ある程度世界史の流れを知っている前提で語られるので。
逆に言えば、世界史が好きな人には楽しめる本だと思います。
まとめ
すごく面白かったです。久しぶりに歯ごたえがありつつ面白い新書を読みました。頭使ったけれど、楽しかったです。
著者は他にもいくつか本を出しているみたいなので、気が向いたら読みたいです。
トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち (中公新書)
- 作者: 藤原辰史
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/09/20
- メディア: 新書
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