あらすじ
製鉄所の社長の娘赤緑豆小豆は、その鉄を操る能力でレディースとして成り上がる。その後部座席には、マスコットの菫がいた。中学卒業をきっかけに、小豆と菫は離れ離れになるが……。
入れ子構造のフィクション
スピンオフ元の『赤朽葉家の伝説』が伝聞口調という信用ならない形式をとっており、さらにそこから毛毬の過去を抜き出したものである本作も、どこまで本当かわかりません。現代ものなのに、どう見てもファンタジーな小豆の能力、同じなようで同じではないキャラクターたち。
『赤朽葉家の伝説』と合わせて見ると、入れ子構造のフィクションになっているのが面白いです。
さらに魅力的なのは、主人公小豆とマスコットの菫の関係性です。
ちゃっかりしていてタフで狡猾で、でも憎めない菫。そんな菫が、救いようのない闇を吐露するシーンはつらかったです。
そんな菫を愛し、不器用なほど彼女のことを考える小豆も、見ていて悲しかったです。
抗いようのない別離を経験した小豆は、菫の家族にこう言います。
「だけど、好きは、永遠なのサ」
(P286)
この言葉が、どうしようもなかったこの関係性の唯一の救いに感じました。どんなに苦い思い出でも、好きだった感情は永遠なのだと。気休めかもしれないですが、そう思いたいですね。
少女ふたりのシーソーゲームのようなアンバランスな関係。物悲しさを感じつつ。関係性萌えで興奮しました。
文体は、あえてのチープさ、作りもの感を持たせながら、音楽のようにテンポよく進んでいきます。暴走族という「フィクション」を生きている小豆には、似つかわしい文体でした。
血生臭いのにかわいくて、ポップで、それでいて無常感もある。様々な要素を詰め込んで、破綻せずに書ききる筆力はすごいです。
まとめ
悲しく、愉快で、疾走感のある青春の話でした。ちょっと変だけれど、ベースは青春小説だと思います。
蛇足だったらどうしようかと思っていたんですが、これはこれで面白いスピンオフでした。
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