ビーズログ文庫・ビーズログ文庫アリスはあまり読んだことのないレーベルだったのですが、KindleUnlimitedにたくさん入っているのもあり、お気に入りの本が増えてきました。
今回はそのまとめを書きました。
- 母の形見の踊る靴を取り上げられて、傍にいるため靴職人になる『シンデレラ伯爵家の靴箱館』
- ひとり暮らしをしたら、しゃべる家電が彼氏面をしてくる小説『家電彼氏』
- 新しく引っ越してきたお隣さんは魔王でした『となりの魔王 到来編』
- 異性装をポジティブに捉える「倒錯しない」ラブストーリー『姫の婿とり 始まりはさかしまに!』
- 転生ものだと思ったらどんどん話が転がっていくエンタメだった『不思議の国のハートの女王 世界の強制力で毒吐きまくり!?おかげで破滅ルートに入りそう』
- 人の上に立つ自覚がある王族ばかりの少女小説『花冠の王国の花嫌い姫』
- 十三歳の皇后、宮廷の謎を解く『十三歳の誕生日、皇后になりました』
母の形見の踊る靴を取り上げられて、傍にいるため靴職人になる『シンデレラ伯爵家の靴箱館』
かつて「シンデレラ」とあだ名される女性が王妃となり、靴の生産が盛んになった国。アデルはその子孫であるディセント家に勝手に踊る母の靴を鑑定してもらおうと持ち込む。しかし形見である母の靴を取り上げられてしまう。アデルは母の靴と一緒にいるために、ディセント家のアランが運営する靴工房で働くことになる。
靴と童話を巡るファンタジーであり、お仕事小説であり、恋愛ものでもありました。
最悪の出会いから好感度を上げていくタイプの話、「最悪の出会い」が最悪過ぎて読み進めても好感度が上がらないことが多かったんですが、これは描写がちゃんとしているのでアランのことを好きになれました。
そしてアランの靴工房で働くアデルの職人としての成長も、きっちり描かれているところが面白かったです。お仕事ものとしてすごく真っ当なんですよね。
家父長制の社会を逆手に取り、そこで生きる女性の苦悩や困難を描いたところも素晴らしかったです。
ひとり暮らしをしたら、しゃべる家電が彼氏面をしてくる小説『家電彼氏』
大学進学をきっかけにひとり暮らしを始めた塔子。しかし家に置いてある、体重計や電子レンジ、掃除機が勝手にしゃべり始める。彼らは塔子の彼氏面をし出し、何かと塔子の私生活に口を出すようになる。塔子は個性豊かな家電たちに翻弄される毎日を送る。
イラストには美麗な擬人化キャラが添えられているんですが、あくまで本文中では家電は家電であり、人間の姿をしていません。つまり塔子は文字通り家電に彼氏面をされています。
ある意味人外×人間ものだと言えるのかもしれませんが、相手が家電なのでロマンチックさのかけらもありません。塔子に彼氏っぽいものができそうになると「家電に例えるとどんな感じ?」と聞くし、機能をディスると機嫌を損ねます。
大学生のひとり暮らしの生活を舞台にした、トンチキギャグ小説です。
新しく引っ越してきたお隣さんは魔王でした『となりの魔王 到来編』
田舎の田園地帯に暮らす夏織(かおり)の家の隣に、魔王が引っ越してきた。ファンタジー世界から抜け出たような彼に夏織は戸惑うが、地域の住民はあっさり受け入れているようで……。夏織は、ご近所さんとして魔王と付き合い、その一般人とは違う思考回路に振り回される。
のんびり読めるほのぼの日常ものでありながら、文章のクオリティがすごかったです。ラノベらしいポップな語り口で、読みやすく、ところどころのユーモアが利いている。すごく文章の上手い作家だと思います。
あらすじ自体は本当に何気ないもので、洗濯機の使い方を教えたり、流しそうめんをやったり、花火をやったり、とりたてて大きな伏線もなければどんでん返しもありません。そういう何気ない話をここまで面白く愉快に書けるのがすごいです。
やたらと古風で中二病なしゃべり方なのに案外お人好しで、子どもっぽいところもある魔王と、普通の女子高生だがツッコミ力が高くモノローグの面白さが群を抜いている夏織の、恋愛要素のない交流は本当によかったです。
異性装をポジティブに捉える「倒錯しない」ラブストーリー『姫の婿とり 始まりはさかしまに!』
父方の家が祖父を裏切り、敵対する家の男児は殺されると女の振りをして生活してきた千芳(ちか)姫。しかし祖父から婿取りの要請を受け、男が婿を取るわけにはいかないと千芳は逃げ出す。逃げた先で出会ったのは、婿候補のひとりであり男装して世継ぎとなった漣吾(れんご)だった。
まず面白いのは、千芳も漣吾も「異性の格好をしていることをネガティブに捉えていないこと」です。
状況によって女らしさ、男らしさを行き来するふたりは、肉体的には男女CPなのにシチュエーションによってはBLのようにも百合のようにも見えてしまいます。
でも、「倒錯している」ということにならないのがすごい。あくまで自然に、ジェンダーを行き来しています。
もちろんエンターテインメントとしても面白くて、主人公ふたりはめちゃくちゃいい子でかわいいし、戦国風世界観のちょっと血なまぐさい感じも好きです。
転生ものだと思ったらどんどん話が転がっていくエンタメだった『不思議の国のハートの女王 世界の強制力で毒吐きまくり!?おかげで破滅ルートに入りそう』
ハートの国の女王、エリノアは自分が転生者であることを思い出した。ここはどうやら現代日本でプレイしていた乙女ゲームの世界だった。くしくも「口に出す言葉が高飛車な罵倒になってしまう呪い」にかかってしまったエリノアは、思っても見ない発言で周囲を振り回してしまう。しかし、攻略対象の帽子屋は、エリノアの味方に付いてくれて……。
転生コメディを読んでいたと思ったら、壮大な多世界のリンクについて知ってしまい、そこからギャンブル対決になった。何だこれ。
何気なく読み流していた部分が実は伏線だったり、フレーバー程度かなと思っていた「不思議の国のアリス」要素がさまざまな方向から回収されていたり、よくできたライトノベルだなあ……と感心しきり。
どんどん伏線や描写を積み上げて、終盤で盛り上げて終わる、ということが違和感なくできています。エンターテインメントだなあ。
人の上に立つ自覚がある王族ばかりの少女小説『花冠の王国の花嫌い姫』
花粉症なのに花あふれる国エスカ・トロネアに生まれてしまった姫君のフローレンス。彼女は花のほとんどないラハ・ラドマへの輿入れを狙う。ラハ・ラドマの王子の求婚を受けてかの国に向かうが、王子をはじめ周囲には「なぜ大国の姫がうちのような小国に?」と警戒されてしまい……。
まず主要登場人物であるフローレンスにもイスカにも、人の上に立つ人間としての自覚があるのが素晴らしいです。
恋愛ものだけれど、愛があれば周囲のことなんて関係ないよね! という態度ではなく、周りの従者や国の民衆も含めて幸せにしたいという主人公ふたりの態度が最高です。ここの国に住みたい。
イスカはいつも臣民を思って優しい行動をするし、フローレンスは自国の利益のために策謀を張り巡らせることを否定しない。形は違えど、ふたりは「王族」としての態度を知っています。
そういうふたりがお互いをリスペクトし、惹かれあっていくのがいいんですよね。わかりやすい胸キュンシーンや、いちゃつくシーンが少ないからこそ、精神性に惹かれているところが強調されています。そこに痺れました。
十三歳の皇后、宮廷の謎を解く『十三歳の誕生日、皇后になりました』
皇帝に後宮入りを願い出ようとしたところ、皇位簒奪が起こり、流れで新皇帝暁月の皇后になってしまった莉杏(りあん)。十三歳の彼女は皇后の務めを果たそうと、宮廷の中の謎に挑む。
ちょっとした思惑のずれが事件を起こしたり、いやがらせかと思いきや実は……だったり。意外性がありつつ、きちんとストーリーに応じた「らしさ」だったので楽しめました。
莉杏みたいな天真爛漫な少女は個人的にはうまく共感できないのだけれど、周囲が彼女を甘やかしすぎないところがよかったです。優しくするし、尊重もするけれど甘くはない。莉杏もそれに応えて工夫したり努力したりする。その関係が心地よかったです。
皇帝としていつも気が張ってばかりいるだろう暁月が、莉杏に癒されるのもなるほどなと思います。
兄妹のような、親子のような、それでも他人であるおにロリコンビはかわいらしかったです。
以上です。興味があれば読んでみてください。