今日の更新は、川島高峰『流言・投書の太平洋戦争』です。
あらすじ・概要
民衆を苦しめた太平洋戦争。戦地に行った兵隊を支える「銃後」の中で人々は何を考え、どう行動したのか。当時の流言・投書を『特高月報』や人々の日記から抜粋し、開戦から終戦までの民衆の心理状態を分析する本。
こんな人におすすめ
- 太平洋戦争に興味がある人
- 群集心理に興味がある人
- デマはどこから来るのか気になっている人
「仕方ない」では終われない戦争の惨禍
戦争を「仕方がなかった」と捉えるにしろ「罪」と捉えるにしろ、人々の行動は何かと美化されがちです。この本はそんな美化を吹き飛ばすほどの迫力がありました。
諸手を挙げて戦争を歓迎した民衆たちは、食糧難や物資の不足にどんどん追い詰められ、政府と一緒に精神論にすがることになります。それに伴って飛び交ういくつものデマ、投書。朝鮮人への差別に関するもの、終戦に関するもの。不安が不安を呼び、妄想が大きくなっていきます。
先行きの見えない不安に振り回され、「戦争に勝つ」というありもしない願望だけが心の支えとなる。後世の人から見れば愚かかもしれません。しかし、当時はそれが当たり前でした。
もちろん何も考えずに政府に従ってしまった民衆に罪がないわけではありません。過ちに学ぶことが、理不尽に死んでいった人への供養なのだと思います。
戦争の中、多くの人はきちんと戦争に勝てるかを深く考えず、思考停止してしまいました。民衆に罪があるとするのなら、その思考停止こそがそれだと感じました。
一方で、デマや不穏な投書がはびこるということは、それだけ当時のメディアや政府が信用されていなかったということでもあります。これは現在のコロナウイルスの蔓延にも通じるところがありました。
愚かな人がデマを信じ拡散させるのは確かです。しかしメディアや社会の方も、信じるに値するだけの誠実さがあるのか。国難の時期には常にそれが問われます。
うちのブログも個人の運営と言えどメディアですし、いい加減な情報を流さないよう気を付けようと思いました。
かなりボリュームの多い本なので、読むのには時間がかかりました。それだけ満足感が大きかったです。
がっつり読書をしたい気分のときには最適でした。