今日の更新は、ジェンダーに関心がある人へのおすすめ作品まとめです。
こちらの記事のブクマコメントで、フェミニズム作品についておすすめしたんで自分でも書こうと思いまして。
pulp-literature.hatenablog.com
しかしよく考えたらがっつり「女性」をテーマにした作品はそれほど読んでいなかったので、テーマを大きくして「ジェンダーに関心がある人向けのおすすめ」に変えました。
小説・戯曲・詩
逃れられない「生む性」の運命『流血女神伝』
田舎に住んでいたヒロインがさらわれて王子の身代わりをさせられる話、なんですが大河小説なので話がどんどん変わっていきます。
正直この作品を上げるかどうかは悩みました。女性の冒険ものとして肯定的に語られることが多いんですが、私としては逃れようのない女性性の話です。
メイン登場人物のほとんどが王侯貴族のため、「お世継ぎ問題」から逃れられません。産むのも地獄、産めないのも地獄。そして、母性という呪いの話。
ただそんなきっつい世界観の中でサヴァイヴしていく女性陣はとてもかっこいいので、そういう意味では勇気をもらえます。
マイナス印象からのラブコメ『高慢と偏見』
聡明ではつらつとしたエリザベスと、高慢な紳士ダーシーがときに反発し合いながらも恋愛する話。
特筆すべきはエリザべスのキャラクターと、それに対する周囲の反応。論理が重んじられない社会で論理的思考を持ってしまった女性の悲哀を感じます。周囲と微妙に会話がかみ合わないあの感じ。読んでもどかしくなります。
毒というほどではないけどちょっとアレな親との付き合い方に関しても、非常に現代的で面白いです。
ヒーロー願望という男の子の呪い『NHKにようこそ!』
引きこもりが新興宗教信者二世の少女に出会って頑張ったり頑張らなかったりする話。
個人的に「ヒーロー願望は男の子の呪いなのではないか」と思っていて、それがよくわかる作品なので挙げました。
理想の自分とかけ離れた今、「何者かでなければならない」というプレッシャーに負けてしまう弱い男が、どうにかこうにかダメ人間からの脱出を試みるストーリーが他人事ではなかったです。
からゆきさんユーラシアを走る『芙蓉千里』
「からゆきさん」として海を渡った女性が大陸で大活躍する歴史ロマン。
女郎、芸妓、そして馬賊と、姿を変えながらユーラシアを疾走する主人公、芙蓉。ある意味男への愛に生きているんですが、なよなよしたところがなくて痛快です。それは常に彼女が主体性を持って選択を続けているからでしょうね。
あとすごくオチが好きです。普通の幸せ、普通の人生を笑い飛ばすような尖った人生を見ていると元気が出てきます。
男女逆転シンデレラストーリー『ようこそ女たちの王国へ』
女性より男性が圧倒的に少ない世界。そこで生まれた男の子のシンデレラストーリー。
深いメッセージを感じるというよりも面白ジェンダー逆転エンタメだと思います。男性にとってはハーレムなのに気苦労が多い世界観。うらやましいとおもうかどうかはあなた次第です。
現代社会とは倫理観が全く違うので、「いい話だった……のか?」とはてなを浮かべながら読むことになります。
酒浸りの妻とゲイの夫の愛の話『きらきらひかる』
アルコール依存症の妻とゲイの夫が結婚する話。
訳ありの人間同士の結婚。自分たちは一緒にいたいのに、周りがそれを許さない。生きているだけで「普通」を強いられてしまう人生について、考え込んでしまいます。
結末がハッピーエンドかバッドエンドに見えるかは、人によるかもしれません。私は個人的には黒いな……と思いました。
アンチ恋愛小説戯曲『ピグマリオン』
言語学者が花売り娘に正しい英語を仕込み、社交界デビューさせる戯曲。マイ・フェア・レディの元ネタ本。
恋愛小説の王道をことごとく否定し、「作者と被造物」の間に健全な恋愛関係は生じないと説きます。
女性向け恋愛小説でよくある、「金持ちで男前でわがままな男にものにされる」というストーリーに反感を覚える人はすっきりすると思います。私はした。
逆に、恋愛小説が好きな人にとっては耳が痛いのではないでしょうか。だからこそハッピーエンドのマイ・フェア・レディが作られたんでしょうね。
少女がミソジニー男をぶっ殺す話 『サロメ』
少女が預言者の首を所望する、旧約聖書をもとにした戯曲。
女性差別文学としての文脈で語られることも多いんですが、私は結構さわやかに感じてしまいました。何故かというとミソジニー男をぶっ殺す話だから。
私がキリスト教徒ではないからだと思うんですが、女だからと言って差別的発言を繰り返すヨカナーンも大概ですよね。だからつい「よかったね!」と思ってしまいました。
昔と今の不倫の違い『みだれ髪』
女性歌人、与謝野晶子の短歌集。
やたらと不倫の歌が多いんだけれど、これは「家制度」の反抗として不倫が扱われているらしいです。
現代はかなり不倫に厳しいので、女性の解放と不倫を関連付けるというのは価値観が全く違っていて面白いです。
もちろん短歌としてもかっこいいので好きです。
実用書・新書・エッセイ
アスペルガー女性向けの人生指南『アスパーガール:アスペルガーの女性に力を』
アスペルガー女性の学業や就職、恋愛についてのアドバイスが載っている本。
ガンガン励ましてくれると同時に、きれいごとを言わないのが好感度高いです。実際に実行できるようなものが多いのもいい。
アスペルガーではなくても、女性ではなくても、社会と何らかの不和を抱えている人には参考になると思います。
男性にこそ読んでほしい 『敏感すぎてすぐ「恋」に動揺してしまうあなたへ』
音や触感、周囲の環境変化に敏感なHSPの人がどうやって恋愛と向き合えばいいのかを語る本。
こんなドピンクの表紙だけれども男性にもおすすめの一冊。なぜかというと、世間に流布している「強い男」の強制から脱却し、敏感な男性なりに恋愛を試みる方法が書かれているからです。
読んでいるといかに自分が「恋愛」への固定観念に囚われていたか、気づかされる本でした。
家族制度に関するハードな未来『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』
日本における家族、結婚の歴史を追いつつ、これからの結婚がどうなっていくのかを考察する本。
共働き社会では収入の多い男女同士が結婚するため格差が広がってしまう。では、どうすればいいのか? 一応言っておきますが、共働き社会を否定しているわけではないのでご安心を。
暗い情報が多いので読んでいてつらいですが、それでも何とか希望を探すしかないんでしょうね。
「自分らしさ」とは何か? 『絲的ココロエ―「気の持ちよう」では治せない』
双極性障害と暮らしてきた著者が、病気のことや生きづらさについて語るエッセイ。
著者は「女らしい行動」を「自分らしくない」と定義づけていましたが、一度試しに女性らしい暮らしをしてみると、それが案外悪くないことに気付きます。
「自分はこういう人間である」という定義が、逆に自分自身を縛っている。「自分らしさ」って案外曲者なんですね。
他にも漠然としたもやもやを言語化しているので面白いです。
さらっと「女」になった人のエッセイ『オカマだけどOLやってます』
身体の性別上は男性な著者が、女として暮らす生活を描いたエッセイ。
履歴書の性別欄を書き忘れたふりをして提出し、女として働いている著者の生活はわりとゆるいです。さらっとしすぎていて逆にびっくりします。
自分が知らないだけで、性的マイノリティは世の中にあふれているんだろうなと思わせてくれるエッセイでした。
漫画:フィクション
ルームメイトはサウジアラビアの女の子『サトコとナダ』
アメリカに留学したサトコが、ナダというサウジアラビアの女の子とルームシェアをする四コマ漫画シリーズ。
ナダはサウジアラビアでの女性への抑圧を疎ましく思うと同時に、「生まれ育ったサウジアラビアを悪く言われたくない」という怒りを抱えています。その葛藤がユーモアを交えつつ丁寧に描かれています。
多様性の中でどこに自分のアイデンティティを置けばいいのか、悩みながら進んでいくふたりの女性の話です。
真面目に愛する女性との関係進展を描く『恋愛の神様』
高齢童貞の男性が、惚れた女性を射止めるために奮闘するラブコメ。というとご都合主義な内容を想像するかもしれませんが、この作品は手段がめちゃくちゃ真面目なんです。
世の中に「モテる方法」は数多く存在するけれども、心から愛する人との関係を持続する手段というのはあまり共有されません。
他人から見てかっこいいとか、男らしいとか、そういうことを抜きにして女性との付き合い方を真面目に描いています。そういう真面目さが最高。
男女逆転したIF江戸時代 『大奥』
男だけがかかる奇病によって男女の力関係が逆転した江戸時代。その大奥にいるのは女の将軍だった……というIF歴史もの。
女将軍たちがたくさん男を侍らせてハッピーか? というとそんなことはなく、人の上に立つ人間の苦労、プライバシーのない環境にいつも苛まれています。強い権力を持ったはずなのに、やはり女であることに呪われています。
お世継ぎという問題がある以上メインは男女の性愛なのだけれど、さらっと男男も女女も出てくるところが公平で面白いです。
どこまでもジェンダーが曖昧になっていく夫婦『ばけむこ』
男装少女と雌雄同体のなめくじ姫が結婚する神婚譚。このあらすじだけでややこしいことがよくわかりますね。
巻が進むごとにどんどん「性別」の概念があいまいになっていきます。しかしあいまいになりつつも、男と女の概念がなくなるわけではない。そのふわふわした感じがくせになります。
自分らしさを定義するのではなく、あいまいなままでいいさと揺らぐアイデンティティを肯定してくれる作品です。
子どもを生める男の子の初恋を描く『三文未来の家庭訪問』
SF短編集の表題作、『三文未来の家庭訪問』は子どもを生める男の子リタが、母親がカルト集団の一員の女の子マキに恋する話。
あらすじだけでジェンダーがめちゃくちゃなんですけれど、語り口は明るく希望に満ちています。ややこしくなっているけれども豊かな未来の話でした。
読み終わるとふたりの恋路を応援したくなってしまうので、これはもう実質ボーイミーツガールものですね。
漫画:ノンフィクション
イランに生まれた少女の自伝漫画「ペルセポリス」
言論の自由が奪われたイランで育った少女が、海外に脱出しまたイランに戻ってくる経緯を描いた自伝漫画。
言論弾圧、女性への差別、ヨーロッパと故郷とのギャップ、そして戦争。抑圧されながら何とか自分らしく生きようとあがくマルジ。かなり癖は強いですがそれだけ読みごたえがあります。
青春をヨーロッパで過ごしたことにより、故郷の人間とは価値観が合わなくなっており、さりとてヨーロッパでも戦争と隣り合わせの生活は理解されない。どっちつかずの価値観の中で悩むマルジが印象的でした。
医者という男社会で働く『まどか26歳、研修医やってます!』
研修医の視点から、女医の世界を描いたコミックエッセイ。
医師の世界で女性は少数派。そこでは暗黙の了解で差別が正当化されてしまいます。女であることの壁にぶち当たり、悩む研修医の姿が描かれています。
読み終わると、「女医さんに理解のある社会にしたい……」と思う作品です。
まどか26歳、研修医やってます! 女の子のお仕事応援コミックエッセイ (メディアファクトリーのコミックエッセイ)
- 作者:水谷緑
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日: 2015/08/28
- メディア: 単行本
夫婦が五分五分で育児をしようとするとこうなる『イクメンと呼ばないで ニブンノイクジ』
夫婦が子育てを五分五分で行ったらどうなるか。漫画家夫婦の子育てエッセイ。
現在社会での子育ての悩みを描きつつ、視線がクールで落ち着いて読めます。
男性が育児参加することに理解はされても、制度や先入観が追い付いていない現状をよく描いていて参考になりました。
個人的にふたり目出産の場面が好き。
レズビアンカップル精子提供者を探す『女どうしで子どもを産むことにしました』
レズビアンカップルが子どもを産むために奮闘するコミックエッセイ。
著者ふたりは信頼できる男性の友人に精子ドナーを探すのですが、これがとんでもなく難航します。自分が育てなくても、親になることは重い。気軽に探せるものではないんですね。
結婚したカップルでないと人工授精ができないというしくみも困りますね。人工授精の間口が広がれば、男性不妊のカップルにも選択肢が増えるのではないでしょうか。
ドラマ・映画・アニメ
結婚をシステム化する『逃げるは恥だが役に立つ』
家事代行の女性がシステムエンジニアと契約結婚する話。
ベースはよくあるマリッジロマンス。面白いのは、ふたりが本当の愛で結ばれてはい終了! という話ではなく、関係を継続させるためのシステム作りに尺を割いたところです。
世間に蔓延する漠然とした「愛」だけでは生きていけない。新時代の結婚関係を提示してくれた作品でした。
【メーカー特典あり】逃げるは恥だが役に立つ Blu-ray BOX(B6サイズクリアファイル付)
- 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
- 発売日: 2017/03/29
- メディア: Blu-ray
安楽な場所を脱出して自由を手に入れろ『 マッドマックス 怒りのデス・ロード』
ポストアポカリプスの世界で、(比較的)安楽な場所にいた女性たちが自由を求めて檻を飛び出します。主人公マックスは狂言回し的立ち位置。
自由を夢見たとしても現実はシビアで、それでも前に進んで生きていこうとする登場人物たちがかっこよかったです。
自分の人生を他人に委ねない、強い女の話でした。
女性が父親の支配から脱出する『Dr.パルナサスの鏡』
男が悪魔とかけ事をし、娘がそのチップとなってしまった話。
女の子が邪魔な男どもの魔の手から脱出する話なので爽快感がありました。呪縛から逃れたラストシーンはとてもさわやかで好きです。
Dr.パルナサスが持つ鏡が見せる、空想世界のぶっとんだ風景も面白くて好きです。
普通の夫婦は実は殺し屋『Mr.&Mrs.スミス』
表面上は普通の夫婦。しかしふたりは殺し屋同士だった……。という映画。
エンタメコメディなのですけれども、「理想の夫婦」でいることをやめて、お互いにぶつかり合い、元鞘に戻る、という過程がきっちり描かれていて夫婦ものとしても面白いです。
普通の恋愛、普通の結婚というものに疑問を感じている人には面白いのではないでしょうか。
男に頼って生きるしかなかった旧世代の女『シンデレラ』
ディズニーが『シンデレラ』をセルフリメイク実写化。
あらすじは『シンデレラ』そのものなんですが、継母がもうひとりの主人公と言っていいくらいに熱を入れて描かれています。
継母自身もおそらく、聡明で美しい女性だった。けれど男性に頼って生きるしかない社会で生き残らなければならなかった。そんな中、美しさも聡明さも、運の良さもある女の子が目の前に現れたら……そりゃあ劣等感が刺激されますよね。
子どもが大人になってから見ると印象が変わる作品だと思います。
シンデレラ MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー+MovieNEXワールド] [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
- 発売日: 2019/05/25
- メディア: Blu-ray
スーパーヒーローの老いを描く『ローガン』
「ヒーロー願望は男の子の呪い」という話を先ほどしましたが、こちらは「もしもスーパーヒーローが老いたら?」というIFを描いた作品です。
ウルヴァリンが介護をやったりプロフェッサーXが認知症になってたり。衰えていく体を引きずりながら、それでも希望を求める登場人物が苦しいです。
X-menシリーズを知らないとちょっとわかりにくいかもしれませんが、 もはや世界を救えないおじさんたちには刺さる作品ではないでしょうか。
女性をテーマにした回が多い『モノノ怪』
モノノ怪を退治する薬売りを主人公とした連作短編アニメ。
「座敷童」「のっぺらぼう」「化猫」と、女性をテーマにした回が多いです。
個人的に好きなのが「のっぺらぼう」。これは嫁ぎ先の一家にいじめられている人妻の話なんですが、殺人をテーマにしたストーリーの物騒さと後味のさわやかさが好きです。
ちょっと怖いのでホラー耐性がない人は注意。
望めば外に出ていけるという救い『少女革命ウテナ』
中学生の男装少女天上ウテナが、「薔薇の花嫁」を巡る決闘に巻き込まれていくファンタジー。
途中まで何でこんなに恋愛脳の登場人物が多いんだ……と思っていたんですが、終盤の展開でそれが覆されて衝撃でした。なるほどこれは少女革命の話ですね。
望めば外に出ていける、という結末はすごく健全。これほどハッピーエンドの作品は見たことがないアニメでした。
以上です。気になる作品があったらぜひ読んでみてください。