今日の更新は、女性主人公×現代もののおすすめまとめです。
現代ものの作品は、ジャンル分け的におすすめする回数が少ないです。しかし漫然とおすすめすると数が多すぎて記事としては読みづらくなります。
したがってうちのブログの人気キーワードである「女性主人公」を絡めてまとめてみました。
現代ものと言いつつ平成初期くらいのものまで含めていますが、その辺を細かく分けると大変なのでそういうものだと思ってください。
家族
『逃げるは恥だが役に立つ』海野つなみ
大学院を出ても正社員として就職できなかったみくり。派遣切りに遭って求職中のみくりに、家事代行の仕事が舞い込んでくる。雇い主平匡(ひらまさ)と良好な関係を築いたみくりは、「就職としての結婚」を提案する。
ジェンダー論の人が評価していたので、なんとなく難しい漫画なのかなと思っていましたが、意外と軽やかで笑える漫画でした。
登場人物の恋愛模様がみんなかわいくて、女性向け漫画としてちゃんと面白いです。
そんな漫画がなぜいろいろな人の心を打ったのかというと、結婚に対するもやもやや、恋愛に対する固定観念を言語化して表現したからだろうなと思います。
その表現の仕方が本当に上手くて、男性読者が多いのもさもありなんという感じです。男性キャラが女性にとって都合のいいキャラではなく、一人の人間として尊重され、恋愛をしています。
『アンダンテ』小花美穂
吹奏楽部の部長でサックスを吹いている茗(めい)は血のつながらない兄、那都(ナツ)と暮らしている。茗は有名作曲家である那都への報われない恋心を持て余していた。そんなある日、ふたりの父がメルヴィーナという少女を連れてくる。「彼女を預かってほしい」と強引に頼まれ、茗と那都はメルと三人暮らしをすることに。
実の妹と義理の妹との三角関係で、ストーリーはかなりドロドロしているのですが、茗もメルもいい子なのでドロドロ感の中でもつらくなりすぎずに済みます。
しかし、この作品をリアルタイムで読んでたころ私は小学校高学年だったのですが、よくもまあさらっと受け入れてたよな……と思います。
茗が恋愛にうじうじしてしまうキャラクターだからこそ、はっきりきっぱりものを言う少年、州(シュウ)が一種の清涼剤でした。彼は興味本位で茗と付き合い始めますが、彼女の恋愛の煮え切らなさにいらいらし始めます。
ちょっとガラが悪いところがありつつ本気で茗を心配しているところがギャップ萌えでかわいいです。
『砂糖菓子の弾丸は打ち抜けない』桜庭一樹・杉基イクラ
『こどものおもちゃ』小花美穂
『よなきごや』かねもと
夜鳴きする赤ちゃんを抱えて、子育てに悩む女性たち。そんな人の前によなきごやは現れる。セルフサービスの飲み物をもらい、粉ミルクをお湯に溶かし、同じくよなきごやに来た人たちと話す。人々はよなきごやから勇気をもらい、日常生活へ帰っていく。
ご都合主義の話ではありますが、面白かったです。むしろ今まで母親たちのこういう「つながりたい」「助けてもらいたい」という願望を扱う作品が少なかったことが意外でした。
子どもを愛しているのにうまくいかず、好きなはずの子どもすら憎んでしまいます。そんな子育て世代の女性たちが安らげる場所を作りたいという意気は素晴らしいです。
内部はセルフサービスの喫茶店のようになっていて、紅茶のティーバッグや軽食が置いてあります。女性たち(ときには男性も)はそこで憩い、話し合い、救いを得ていきます。
こんな理想の世界があるとは思えないですが、フィクションとして表現するならいいじゃないか、と思う作品でした。
『愛すべき娘たち』よしながふみ
大病から生還した母は、これをきっかけに結婚すると言い出した。その相手とは、娘よりも年下の俳優で……。一組の親子を中心に、それぞれの人間関係が描かれる連作短編漫画。
世代交代をしていく上で女性が抱える悩み、そして呪われたり祝福されたり。人間関係の複雑さが描かれています。
ままならない価値観の違いや自分自身の問題を抱えているけれど、それでも生きていく女性たちがかっこよかったです。
淡々としていながら「あるある」と思える作品でした。
『PIL』ヤマザキマリ
浪費家の祖父とともに暮らしている七海は、学校の頭髪検査に反発して丸坊主にしてしまう。七海祖父に振り回されるも、友人や近所の人と触れ合いつつ成長していく。イギリスのパンク音楽に惹かれる七海は、やがてイギリスに渡りたいと願うようになる。
学校の頭髪検査に反発し、髪の毛を坊主にする主人公。しかし彼女自身は常に周囲に反抗するような学生ではなく、どちらかというと大人しい方というのがギャップがあって面白かったです。
イギリスの音楽が好きな主人公が、周囲との交流を通して成長したり、いろいろ考えたり……という心理描写がよかったですね。
サクッと読め、一冊完結の漫画としては楽しめました。
パンク音楽が彼女に救いを与えたのだろうな、というところもよかったです。
青春・学園
『やわいボンド』菊池真理子
最近犬を飼い始めた鈴音は、同じく犬を飼っている近所の人と仲良くなる。同時に、鈴音は友人の冴との関係に悩んでいた。意地悪で辛辣なことを言うようになった冴、さらに冴は、少年院を出所した殺人犯と交流を持っているらしく……。鈴音は友情と不信の間で揺れ動く。
主人公、鈴音は最近友人の冴が変わってしまったことが気になっています。辛辣な物言いを繰り返し、前科持ちらしき人と交流を持とうとします。
鈴音はそんな冴に不快感や不信を覚えながらも、子どもゆえに「もしかしたら冴のほうが正しいのではないか?」と考えます。
少し考えたら、冴の方が様子がおかしいのですが、人生経験の少ない子どもにはそれがわかりません。そこが現実味がありました。
話が進むごとに、冴は、複雑な家庭事情で悩んでいることがわかります。
兄を溺愛する一方で、妹の冴につらく当たる母親。そんな母親に反発しつつも、どこか母親に愛されたいという気持ちを捨てられない冴が哀れでした。
『くそじいじとカメラと私』うず
高校生になった杏は、「彼氏と住む」と言う母親に家から追い出され、父の家で暮らすことになる。「娘の子育てに失敗した」と後悔している祖父は、せめて杏はまともに育てようと心を砕く。そんな中、杏は部活動として写真をすることとなった。その先生として祖父がやってきて……。
大人として未熟な親に育てられた少女と、娘の子育てについて後悔し、償いとして孫を育てようとするその祖父。ネタ自体はシリアスですが、語り口はコミカルで面白かったです。
カメラというツールを通して祖父と孫がぎこちないながらも少しずつ家族として成長していく姿や、周囲の友達との交流で「自分」を確立していく杏を見ていると、読者としても嬉しかったです。
絵柄も大変かわいらしく、見ているだけで癒される内容でした。全員かわいい。
杏と友達との何気ないやりとりも本当にかわいい~。女の子がキャッキャウフフしてる姿は健康にいいです。
日常
『ぴっぴら帳』こうの史代
キミ子は迷子のインコを「ぴっぴらさん」と名付けて飼い始める。自由奔放なぴっぴらさんに振り回されつつも、キミ子は動物のいる生活を送る。主人公の勤め先の食堂や、家族、友人を交えてインコと暮らす日常を描く。
インコのことには詳しくないのですが、描写が生き生きとしていて、インコや小鳥たちが楽しそうで、心温まります。
小鳥店で働く青年との淡い恋物語もよかったです。じ、じれったい……本来展開が遅い恋愛ものは好きではないのですが、この作品の中心はあくまでインコであり、恋愛はおまけなので楽しく読めたのかもしれません。
キミ子以外でも周囲の関係が変化します。結婚したり離婚したり、他の人にも恋の知らせがあったり。ほのぼのとしたまま移り変わる人間関係がよかったです。
『『猫がいない』短編集 凪を探して』
感情を抑圧しながら日々の仕事をこなす女性。いつか飼い猫と島で暮らすことを夢見ていたが、猫が行方不明になってしまい……。「猫がいない」を共通テーマに、女性たちの悲しくおかしく愛おしい日常を描く短編集。
主人公はみんな女性なんですけど、どの女性も大分だめなところがあって、情けない人たちです。
しかしその情けなさにリアリティがあって、「こういう人いるよな」「人生でこういう瞬間あるよな」と共感しながら読んでいけます。
欠点だらけの主人公でも、描き方はどこか優しく、だからこそ少し救いのあるエンドを迎えたとき安心しました。
輝きたいけれどうまく輝けない、ちょっとコンプレックスを抱いた女性にはおすすめの漫画です。
恋愛
『泥の女通信』にくまん子
男と女が恋に落ち、そこに面倒な物語が生まれる。妬みや嫉み、不倫や浮気、遊び相手としてキープされていること……。物語に出てくる女性キャラクターは、悩み惑い、それでもこのろくでもない世界で生きていく。
不倫や不特定多数との性交渉、ほぼ付き合っているのになぜか付き合ってない男女、良い未来を感じさせない恋愛……などなど。あの手この手でだめな恋愛が展開されました。
性的なシーンが多いですが、性的に興奮するというよりストーリーを生々しくするタイプのエロさです。性の気持ち悪いところ、不穏なところを露骨に出しています。
性について露悪的な一方、絵柄がデフォルメ強くてリアリティ薄目なのがよかったところです。これをガリガリに現実味のある絵柄で描かれたら笑えなかったと思います。
創作活動
『少女漫画』松田奈緒子
少女漫画が好きな女性たち。彼女たちが困難に直面するとき、あのころ読んだ少女漫画のことを思い出して……。同時に、売れない少女漫画家は、自分の作品が理解されないことに悩んでいた。実在する少女漫画をテーマに、女性たちの人生を描く連作短編。
『ベルサイユのばら』など読んだことのある少女漫画も多く、懐かしい気持ちになりました。
登場人物たちは、何かしらの困難を抱えていますが、少女漫画が与えてくれた視点で、もう一度現実をとらえ直していきます。
物語を読むことは趣味で、それが直接お金になるわけではありません。それでも人は物語に支えられることがあります。
少女漫画がもたらしてくれるささやかな奇跡に、心が暖かくなりました。
『メタモルフォーゼの縁側』鶴谷香央理
女子高校生のうららは、BLが好き。ある日バイト先にやってきた老女、雪と出会い、BLをきっかけに仲良くなっていく。BLトークに花を咲かせているふたり。うららは、次第に「自分もBLを描いてみたい」と思い、同人イベントにBL同人誌を作って参加することにする。
年の差のある女性ふたりが、BLという趣味を通して仲良くなり、思いを共有し合うのはほほえましかったです。
主人公の片方が老女なので、漫画の刊行スピードを見て死ぬまでに読み切れるか不安になったり、娘との関係だったりが、リアリティをもって描かれるのが素敵でした。
主人公うららとイケメンの友人、紡とに、恋愛フラグが一切立たず「異性の友達」でありつづけるのも新鮮でよかったです。しかもうららは、別の女の子に恋をする彼を応援しさえします。
こういう「友達だけれど恋愛相手は別」という友情は好きです。
『ダルちゃん』はるな檸檬
人間に擬態しているが、ダルダル星人のダルちゃん。ある日、同僚に絡まれたときに仕事仲間に助けられ、それから自分のことを考え始める。彼氏ができ、初めて気兼ねなく話せる相手を得る。詩を書き始めたダルちゃんは、恋人のことを詩に書くが……。
ダルちゃんの正体である「ダルダル星人」は実際にこういう形であるわけではなく、「社会の『普通』に馴染めない」ことへの暗喩でしょう。そして擬態とは、普通がわからないなりに普通に振る舞おうとしているということだと思います。
詩を作ることを知ったダルちゃんは、そこであるがままの気持ちを書いたことで心の救いを得ます。それに待ったをかけたのがダルちゃんの恋人、ヒロセくんでした。
以上です。興味があれば読んでみてください。