ブックワームのひとりごと

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男性主人公のライト文芸おすすめ10選

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ライト文芸って女性主人公の方が多い気がするなと思ったので、逆に男性主人公のライト文芸のおすすめをまとめてみました。

なお「男同士の巨大感情もの」を含めるかどうか迷ったんですが、それは分けて記事を立てたほうが需要がありそうなので、ここでは除外します。

 

 

少年少女&時間SFの短編集『ある日、爆弾がおちてきて』

浪人生の前に現れたのは、高校時代好意を持っていた女の子だった。彼女は自分が爆弾だと名乗り、主人公とデートをしてドキドキしようとするが……。表題作ほか、精神だけ時間を遡る奇病、図書館にいる小さな神様、窓に映った違う時間軸の少女など、時間SFと少年少女を描いた短編集。

少年少女と時間SFでここまでの種類の話が書けるのは引き出しが多すぎて感動します。引き出しの多さがすごい。

話。窓でつながるボーイミーツガールがロマンチックだし、オチの小粋な展開も最高。

表題作と対になっている「むかし、爆弾がおちてきて」もよかったです。少年が強い好奇心と憧れによって(ある意味)時間を超えるのが面白いです。周囲から見ればおかしい行動だろうけれど、物語の中ではすごく魅力的に見えます。

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価値観のおかしいあやかしたちと暮らす妹を救え『あやかし屋敷で夕食を』

母の死の知らせが届き、生き別れの妹有沙とと再会した旭。有沙は人でないものたち「あやかし」と屋敷で一緒に暮らしていた。有沙は、蛇神の生贄となってしまったという。価値観のおかしいあやかしたちと同居することを心配した旭は、有沙と一緒に暮らすために屋敷に留まる。

ざっくり説明すると「傲慢な主人公旭が鼻っ柱折られる話」なんだけれども、その主人公の潜在的傲慢さがリアルで身につまされました。

しかしそういう無意識のわがままっぷりを書きながらも、旭を完全否定せず、ストーリーの中で回心のきっかけを与えるところが優しいですね。他の人間のキャラクターたちも、何かしら「やなとこあるな……」という部分を抱えつつ、彼らを排除するような物語にはなりません。

人生を感じる作品です。

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ゲイの少年が腐女子と付き合ってしまう『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』

同性愛者である高校生、安藤純はある日クラスメイトの女子、三浦がBL本を買っているところを目撃する。三浦はそれ以来積極的に純に関わるようになり、ついには告白してきた。「将来子どもがほしい」「普通になりたい」「恋愛感情ではないが三浦が好きだ」という気持ちが交錯した結果、純はその告白を受け入れてしまった。

主人公はゲイですが、ストーリーとしては男と女の感情の話です。三浦に惹かれ、好ましいと思いつつ、「性器が勃起しない」という点でどうしても「普通の彼氏」にはなりえない純は悩みます。

生まれたときから社会の「こうあるべき」という価値観に従えない存在だったら、どうすればいいのか。狂うことなく、他人を傷つけず、生き延びるにはどうしたらいいのか? 作中に登場するゲイたちは、常に自問自答を続けます。その結果、悲劇的な結末を迎えてしまうことも……。

かなり社会派な内容な作品です。

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トラウマを抱えた男が初対面の女性と結婚する『ひきこもりの弟だった』

ひきこもりの兄と、彼を過保護に世話する母との関係がトラウマになっている「僕」。彼は初対面の女性、千草から結婚することを持ちかけられる。僕と彼女は、穏やかに生活を送っていくが……。

ひきこもりの兄と、彼と共依存関係に陥っていく母親の描写がリアルでとても辛かったです。

回想と平行して、主人公の妻千草との現在の関係が描かれていきます。何か訳ありらしい彼女と、自身もひきこもりの兄によるトラウマを抱える主人公。おだやかで優しいようでいて、いつ壊れるかわからない不安定なふたりにははらはらしました。

みんなが内なる地獄によって、誰かを傷つけた。彼らに責任があるかと言われれば微妙です。それが罪であれば傷つくことすらだめになってしまいます。本当にやるせないですね。

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ヒモの青年が老女画家の家で食事を作る『極彩色の食卓』

美大を休学して女性の家を転々としていた青年、燕(つばめ)は、半分引退したような女流画家律子に拾われる。律子は掃除もできなければ炊事もできず、まったく生活力がない。燕は律子の弟子から送られてくる食材を駆使して料理を作るのだった。

老いた女流画家と休学中の美大生の、居候以上恋愛未満の奇妙な関係。料理を作りながら穏やかに暮らしているようで、お互いに執着を持ち始めていきます。

それでいて、心に苦しみを抱えたふたりは、少しずつ救われていきます。両親に絵を描くことを強いられ、美大に入ってから絵が描けなくなってしまった燕と、あることをきっかけに絵に黄色が使えなくなってしまった律子。ある意味で「色」を失った燕と律子が、食事をともにするうちにその「色」を取り戻していくストーリーがもう本当に最高。何百回でも読みたいですね。

うまく生きられないふたりが寄り添うように癒される話です。

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相撲中心でカエルを信仰する村『雨の日も神様と相撲を』

事故で両親を失った文季(ふみき)。引き取られた叔父の元に向かうと、そこはカエルを崇め、相撲を中心として生活している村だった。子どものころから相撲の英才教育をされてきた文季は、何かと声をかけられるようになるが……。

読み始めた当初は、主人公の文季のことがあまり好きではありませんでした。主人公、卑屈だし失礼だし、他人の褒め言葉を素直に受け取らないので、「嫌な奴だなー!」と思いながら読んでいたんですが、ラストの彼の行動にやられました。文季がそんなことを考えていたなんて、びっくりしましたよ。一気に彼が好きになりました。

カエルが神様で、相撲中心に社会が成り立っている村、という舞台設定も面白かったです。相撲を取るカエルを想像するとかわいいですね。ぴょこぴょこしてそう。カエルの体の構造も含めて相撲シーンを描いているところが、マニアックです。今日日相撲中心の村とかおかしいだろ、と思いつつ、設定がしっかりしているので、「あるかもしれないな」と思わせるリアリティの塩梅がすばらしいです。

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那須与一の霊に取り憑かれて弓道をやる『キュードー・ライフ!』

ひょんなことから那須与一の霊に憑りつかれた良治。彼はひとりきりで弓道部の活動をしていた鹿目梓に一目ぼれし、弓道部に入部する。良治はどんどん弓道の楽しさにのめり込んでいき……。

この作品は何より弓道シーンが熱くてよかったです。怖いくらいに集中して、ひとつひとつの矢に心を込める過程がきっちり描かれていて面白かったです。

弓道は未経験だからリアリティがあるかはわからないんですが、次に弓道の試合を見たら見る目が変わりそうな気がします。

女の子目当てで入部したのに、だんだん恋愛関係なくなっていくのも面白かったです。本末転倒してるけど、スポ根ものなのでこれはこれでありだと思います。

 

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板前が水族館職員に転職『水族館の板前さん』

働いていた料亭が閉まり、無職になった主人公、浩介は、水族館の臨時職員として働くことになる。水族館の仕事に少しずつやりがいを見出していく浩介だったが、仕事は波乱の連続で……。

話を転がしていくのが非常に上手いです。読むほどに続きが気になっていく作品でした。ストーリーテリング能力を感じます。リアリティのないシーンもあるにはあるんですが、それでも全体として面白いからあまり苦にはなりませんでした。

印象的だったのが、主人公浩介とヒロインの志帆が「夢」と「願い」について話すところです。ここを中心に全体を見てみると、ふたりの「夢」と「願い」は密接にリンクしているんだなと感じました。

夢を諦めて新しい目標を持つことを描いた作品でした。

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学校の幽霊話と驚きの展開『僕が七不思議になったわけ』

高校最後の年、「僕」中崎は、謎の幽霊に学校の七不思議にされる。七不思議と交流して力を借りることができるようになった彼は、ストーカーに悩まされていた朝倉さんを助ける。彼は朝倉さんと交流するようになるのだが……。

のんびりした連作短編ものかと思いきや、終盤にかけての展開にびっくりしました。まったく事前情報を仕入れていなかったので、衝撃的でした。ネタとしては珍しいものではありませんでしたが、伏線の張り方が自然で本当に築きませんでした。

こういう作品は、過程が面白くないことも多いのですが、そこに至るまでの描写が丁寧で面白かったのがよかったです。主人公二人も特別個性的というわけではないですが、親しみを覚える素敵なキャラでした。

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はったりだけで成り上がる王子『騙王』

妾腹の王子、フィッツラルド。彼は王になるべく商人、姫君、敵国の将軍と口先三寸で戦う。王になりたい彼の出生の秘密とは。そして王は誰を世継ぎに選ぶのか。

性格の悪いキャラクターを書くのがとても上手な人です。メインヒロインの美人で苦労している姫君が、立場が上であろう主人公にずけずけ言ったり、政略結婚を利用する気満々なのが最高。このヒロインだけで読む価値があります。こういう女の子大好きなんですよね。男の意のままにならない感じ!

一人を除いて腹に何かしら持っている人ばかりなので、そういう人たちが会話によって妥協し、利用しあい、協力し、戦うところが面白かったです。そんな感じで言葉がメインとなった話なので、会話文が多めです。

明るい話ではありませんが、痛快感は感じるのでストレス発散にいいです。主人公補正で上手くいっているところももちろんありますが、エンターテイメント性が強くて楽しかったです。

 

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以上です。興味があれば手に取ってみてください。