あらすじ・概要
辞書編纂の仕事をしている著者は、新たな版の辞書を作るために「言葉」を追う。日常の中から気になった言葉を収集し、減らす項目、増やす項目について悩み、抽象的な用語の説明に四苦八苦する。言葉のプロが辞書作りを通して、日本語でできた世界を紹介する。
1冊の小説が企業を動かすこともある
新書は良くも悪くも熱が強いというか、焦燥感を感じるような文体が多いのですが、この本は落ち着いていてどこかのんびりした語り口でした。
さすが日本語のプロが書く本で、文章が平易で大変読みやすいです。中学生くらいにも読める新書なのではないでしょうか。
疲れているときでも読みやすくていいですね。
面白かったのが三浦しをんの小説『舟を編む』の1シーンをきっかけに「恋愛」の説明を変えるべきではないかという議論がなされたことです。一冊の小説が企業を動かすことがあるんですね。
「恋愛」を男女の性愛に限定するのは同性に恋する人々への配慮にかける。しかし「恋」を性別抜きにどう説明すればいいのか……。悩む過程が面白かったです。
現代ではあまり使われなくなった言葉を減らすかどうかの悩みも面白かったです。この辺りは明確な境界線がないでしょうから判断が難しいですよね。でも削除された言葉を紹介する部分は楽しかったです。「なくなった言葉」には味わいがあります。
辞書編纂は地味で気の長い仕事ですが、人々の文化を支えるうえでなくてはならないものです。こういう仕事が評価され必要とされる世の中であってほしいです。