ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

『蒼穹のファフナー』感想

蒼穹のファフナー Arcadian project 01 [DVD]

 

あらすじ・概要

竜宮島で暮らしていた一騎。しかし島に謎の敵フェストゥムが現れ、一騎たち少年少女はパイロットとして収集される。過酷な戦いの中、命を落とす者、同化現象に悩まされる者が多発する。一騎たちの向かうべき場所はどこなのか。

 

倫理観にはツッコミどころがある

面白いけれど作中で描かれる倫理観の描き方には突っ込みどころがありました。

 

人類を同化しようとする宇宙からの侵略者。それを倒せるのは子どもたちの乗るファフナーだけ。子どもたちを戦いに向かわせることへの大人たちの葛藤はつらかったです。

 

ただ、共感できない部分も多いです。

特に人類軍の扱いがかわいそうでした。あんな勝ち目のない戦を続けていたら「フェストゥム絶対に許さない」という思想になっても仕方ないと思います。ある意味、「平和という文化を残す」という考えは成功しているわけですが。

フェストゥムとも和解できるかもしれない、という思想を恐ろしいと感じるのは私はわかります?

 

それから、ここまでの人権侵害行為をしておいて、人類は生存すべきなのか考えてしまいますね。私なら自分は死にたくないから頑張るかもしれないけれど、子世代に自分と同じように世界を守れなんて言えません。

 

とはいえ、この辺りの問題は、脚本家の小説作品である『シュピーゲルシリーズ』では解決されていたので、本人にも自覚があったのかもしれません。

 

 

【ツッコミどころもあるがまあ楽しめた】竹宮惠子『地球へ…』感想

地球へ…[カラーイラスト完全版デジタルエディション] 1巻

 

あらすじ・概要

遠い未来、人類は成長段階やエリート非エリートで区分され、それぞれの星やコロニーで暮らしていた。育英都市で育ったジョミーは、ある日不思議な力に目覚める。彼の目の前に現れた人々は、彼のことを新人類「ミュウ」だと告げる。ミュウとして生きていくことになったジョミーは、やがてミュウのリーダーとなる。

 

ツッコミどころもあるがまあ楽しめた

ストーリーや世界観にツッコみどころのある作品ではありましたが、まあまあ楽しめました。

特に目を引いたのはカラーイラストの上手さで、広大な宇宙に浮かぶ宇宙船や、ミステリアスなキャラクターの容姿などが美しかったです。

電子書籍なので、印刷費を気にせずにカラーイラストを収録できるところはいいですね。

 

ストーリーの点ではスケールの大きい単位で宇宙を駆け巡るのが面白かったです。今の科学知識だとワープは無理だとか宇宙船の限界だとかが言われてしまうので、こういうスケールの大きさは表現できないんですよね。

それから大きな戦争が起こっているのに、一般市民はその戦争の意味をわかっていなくてぼんやりしているところはリアルでした。戦争があっても命の危険があっても実感がなければ、こんなものなのかもしれません。

 

一方で、不満なところもありました。最終的にミュウと人類の和解、もしくは決別が描かれずに終わったからです。ミュウと人間がどういう関係を築くのかという話をずっとやっていたので、ここはきちんと結論を出してから終わってほしかったです。

意味深な終わり方を目指したのかもしれませんが、すっきりしない気持ちになりました。

 

【アメリカ的タフガイが「何者かでなければならない」という呪いを打破する】ディズニーアニメ『バズ・ライトイヤー』感想

バズ・ライトイヤー (吹替版)

 

あらすじ・概要

故郷の星への期間を目指す人々のため、ハイパー航法の試験飛行を行うスペース・レンジャーとして宇宙に飛び出すバズ・ライトイヤーは、ウラシマ効果によって星で暮らす人々との時間がずれていく。ハイパー航法の実験が打ち切りになり、人々が故郷を目指さずこの星で生きていくことを決めたとき、バズは勝手にハイパー航法の試験を実行する。

 

懐かしい感じではあるがオチは現代的

バズが懐かしい感じのアメリカのタフガイですが、「トイ・ストーリーのおもちゃ、バズ・ライトイヤーの原作」としてはこれはこれでリアリティがあります。

 

冒頭からほのかな恋心を持っていた相手がパートナーを持ち、家族を築き、人生をやっていっているのに、バズは若いまま、ひたすらハイパー航法の試験を繰り返していきます。愛はありますが、業が深い描写でした。

実質的に時を超えたバズは好きだった人の孫と出会いますが、彼女とラブストーリーは展開しないところがいいですね。かつて好きだったあの人とは別の人で、あくまで面影がある人なんですよね。

 

わかりやすいヒーローであるバズが、「自分は何者かでなければならない」という感情に呪われていることに気づくところは、とても現代的でした。

自分の役割にこだわり続け、それが他人を不幸にしてても成し遂げようとする行為は、自由ではありません。バズが自分自身と向き合うことで、状況が打開されるところが面白かったです。

 

 

【女性同士のカップルが囚われのパートナーを救って社会を救う】小川一水『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2 (ハヤカワ文庫JA)

 

あらすじ・概要

夫婦で昏魚(ベッシュ)と呼ばれる魚を獲る世界で、女同士の漁師として生きていこうとするテラとダイオード。自分たちが生きられる場所を探すふたりだが、ダイオードが彼女の生まれた氏族、ゲンドー氏にさらわれてしまう。テラはダイオードを救うため、ゲンド―氏の氏族船「フヨー」を目指す。

 

世界観を掘り下げつつ同性カップルへの差別を描く

主人公たちのチート性が否定される話であり、実際他の氏族はどう暮らしているのか? という話でもありました。
家父長制ごりごりの社会ではありますが、氏族長の妻たちは結構たくましくて海千山千なところがあるのがよかったです。それだけ、男女差別で正当な評価を得られていないことについて考えてしまいますが。

 

作中では、テラとダイオードが「どうして周回者の世界から出ていきたいのか?」という理由が繰り返し示されます。

周回者の世界でも、テラとダイオードを気にかけてくれる人はいます。しかし、そういう人でもテラとダイオードが恋愛関係であることを尊重はしてくれません。
ダイオードの父親小角(オヅノ)も、既存の価値観にとらわれないキャラクターとして描かれているのにもかかわらず、ダイオードに子どもを作ってほしいと言い放ちます。
でも、差別ってそういうものだよな、嫌いじゃない人の差別発言ってきついものだよな、と思いました。

 

最後にテラとダイオードが下した決断は痛快であるとともに、少し寂しさも感じました。
最後に周回者たち側から変わろうとする人たちも出てきたことに、ほのかな救いも感じました。

 

【都市遺跡で迷っていたら謎の人型知性体と出会いました】田中ロミオ『人類は衰退しました3』

人類は衰退しました3 (ガガガ文庫)

 

あらすじ・概要

衰退した人類が暮らす「わたし」の村に電気がやってきた。「ヒト・モニュメント計画」によって盛り上がる村だが、妖精さんたちはどこかに行ってしまう。そんな折、「わたし」は都市遺跡の調査中に迷子になってしまう。機能を停止した都市の中でサバイバルが始まる。

 

謎の遺跡でのサバイバルと「わたし」の個の登場

謎の遺跡で迷子になって探検して死にかける話。渇きで大変なことになるシーンがリアリティがあります。
今回は妖精さんの成分が低いこともあり、その分ギリギリ感が増しています。妖精さん、いなければいないですごく困ります。
 
遺跡を探検……と言っても人類は衰退しましたの世界がそもそも遠い未来の話なので、遺跡自体も私たち現代人の感覚からするとすごく科学が進んでいます。
そんな中で出会った明らかなオーバーテクノロジーを抱えた謎のキャラクターというのが楽しいです。
P子もO太郎も愉快なキャラクターで好きです。
ラストの種明かしと、「わたし」が選んだ結末にはしんみりしました。やらかしに対して「わたし」への断罪はものすごかったですけど。むしろ、このくらいで済んだと思うべきなんでしょうか……。
しかし引きこもり気質の「わたし」が他人を助けるためにここまでするというのが、面白いんですよね。
「わたし」の個性が引き出されつつあった巻だと思います。

 

 

【主人公と悪役が作る奇妙な絆】ディズニーアニメ『トレジャー・プラネット』

トレジャー・プラネット [DVD]

 

あらすじ・概要

聡明だが問題児の少年、ジムはトレジャー・プラネットに向かう宝の地図を手に入れ、冒険へと旅立つ。しかし、ジムに与えられたのは下働きの仕事だった。ガラの悪いサイボーグのシルバーに弟子入りさせられ、掃除や皿洗いをする毎日だったが、シルバーとジムの間には奇妙な絆が生まれ……。

 

SFと大航海時代が交差する世界観と男と男の関係性

男同士の関係性の話でした。新鮮な内容で面白かったです。
 
船を乗っとり、宝を独り占めにしようとしていた悪役が、主人公のジムに思い入れを持つようになってしまい、最終的に自分を危険に晒してでもジムを助けます。
「この場面でついついジムのことを好きになってしまったんだろうな」という部分がたくさん用意されているので、唐突感がありません。そりゃ、情は沸くだろうな……と思います。
 
悪人がきちんと罰されないラストは、正しいとは言えないでしょう。しかしたまには悪い人間との関係性に夢を見てもいいのかもしれないな、と思いました。
別れのシーンでの、美しい言葉の繰り返しが印象的でした。
 
大航海時代と、オーバーテクノロジーが交差する独特の世界観もよかったです。レトロとサイバーが両方楽しめます。
 
しかし、突然息子が博打打ちみたいなこと言い出して、宇宙に飛び出してしまったジムの母親はかわいそうでした。冒険ものだから展開的には仕方ないとはいえ、同じ女としては同情してしまいますね。

 

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【いけ好かない車が田舎になじみ、大切なことを知る】ディズニーアニメ『カーズ』

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あらすじ・概要

レーシングカーのマックイーンは、ひょんなところから田舎町に迷い込み、そこでのトラブルから道をきれいにすることを命令される。もうすぐトップの車を決めるレースが行われる中、しぶしぶ舗装作業を始めたマックイーンは、少しずつ周囲の人たちになじんでいく

 

いけ好かないキャラクターの感情の変化が上手い

「都会っ子が田舎に来て田舎のよさを知る」というストーリーはベタでしたが、描写の上手さが光る作品でした。

主人公マックイーンはいけ好かないやつで、周囲をナメ切っています。彼が徐々に田舎町の車たちに心を許し、本音で話せるようになります。
マックイーンが周囲をナメているときと、本音できちんと話すときの、表情や声の演じ分けがよかったです。似たようなことを言っていても、文脈ががらりと変わります。
これは映画ならではの表現ですね。

そして、この世界では生き物が全て乗り物の姿で描かれているので、SF的な新鮮味がありました。食べ物はガソリンを初めとする燃料、せっけんや洗剤の宣伝と同じような感覚で錆び取りのCMが流れます。
レーシングカーであるマックイーンの走りを見るのも、全員車です。スタジアムがどういう構造をしているのか不思議です。
きかんしゃトーマスのような、人間と知性のある乗り物が共存するような世界観を想像していたので驚きました。でも、これはこれで興味深いです。

 

最後は勝ち負けにこだわらない終わり方で、何だかしんみりしてしまいました。強さとは何かと考えてしまう結末でした。

 

【ブロマンスをやりつつ子どもへの対応について考えさせられる】ディズニーアニメ『モンスターズ・インク』

モンスターズ・インク (吹替版)

 

あらすじ・概要

モンスターが暮らす世界。モンスターたちは人間の子どもの悲鳴をエネルギーとして暮らしていた。サリー(サリバン)は、人間の子どもを驚かせ、悲鳴のエネルギーを回収するのが仕事。しかしある日モンスターの世界にひとりの人間の女の子が迷い込み、サリーとその相棒マイクはてんてこ舞いになる。

 

子どもをパッと見て守りたいと思えるかどうか

幼女を挟んだブロマンスのような作品でした。

幼い子どもを目の前に、庇護欲や父性に目覚め、ブーを守ろうとするサリーと、それについていけないマイク。

男同士の面倒な感情を感じると同時に、「子どもを見てパッと守るべき対象だと思えるかどうか」という描写には考えさせられました。

私も子どもは守られるべきものだとは思いますが、大人みんなが常にそう思えるのであれば、子どもへの暴力は発生しないはずです。

ブーとサリー、マイクは種族が違うのでその差の描写はマイルドになりますが、リアルな人間がこれをやっていたとしたら生々しかったでしょうね。

それでも三人組の関係や、やりとりはかわいらしく、子どもって迷惑な部分もあるけど、どうにも引き付けられる部分もあるよね……と思いました。

 

一方で、ストーリー全体の悪役をネタばらしされたときには「またそれか~」という思いが強かったです。ディズニーピクサー、このネタ多いですね。映画館でたまに見るくらいならいいだろうけど連続視聴しているとツッコミたくなります。

まあ、このポジションの人を悪役にするのが一番手っ取り早いのでしょうが。

 

【登場人物が暗くてだめででも面白い】『フランケンウィニー』

フランケンウィニー (字幕版)

 

あらすじ・概要

少年ヴィクターは、自分の友人である犬のスパーキーを亡くして嘆き悲しむ。雷の力を借りてスパーキーを蘇らせるが、その力がクラスメイトにバレてしまう。クラスメイトたちは死んだ生物を生き返らせ、恐ろしい事態になってしまう。

 

犬だけが友達の男の子が犬を蘇らせる

ディズニー映画マラソンをしている中では、ものすごく「正しくない」内容の映画でした。でもそこが面白いです。

 

町は陰気で、周囲の大人はずるいし、いじめっ子もいるし、信用できないクラスメイトもいます。

そんな町で飼い犬を友達として愛し、死んだ犬を科学の力で蘇らせます。

しかもオチもテンプレ的な展開を通らずそうなるんだ!? と驚きました。

しかし、倫理的に正しい話ばかり見ていて、たまにこういう作品に出くわすと癒されます。正しさは大事なんですが、繰り返し語られると疲れてしまうことがあるからです。

正しいキャラクターが出てこない世界で、主人公も正しいわけではなくて、でもそれなりに生きていくという話は、息抜きになります。

 

後半は完全にホラー映画の展開で、スマホの小さな画面で見ているからいいものの、映画館で見たとしたらかなり怖かっただろうなと思います。

直接的なグロはありませんが、クリーチャーたちのデザインのおっかなさや、不安を煽る行動は恐ろしかったです。

怖いものが苦手な人にはおすすめしませんが、ひねくれた作品が好きなら見てほしいです。

 

 

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【なぜ私はカルトな世界を信じられないのか?】村田沙耶香『信仰』

信仰 (文春e-book)

 

あらすじ・概要

スピリチュアルな何かを信じられず、「現実」ばかりを見ている主人公は、「カルトをやらないか」という誘いに乗ってみる。表題作ほか、他者に馴染めない、どこか心ここにあらずな人々を描いた短編&エッセイ集。

 

全体的に「普通」に生きられない人々の物語でした。私自身も世の中に大して居心地の悪さを感じているタイプなので、共感しながら読みました。

 

表題作『信仰』は、現実に近い世界観だけれどもどこかおかしいです。鼻のホワイトニングが流行っていたり、50万円もするお皿のブランドが流行っていたり。主人公はそういう怪しげなものを一蹴しますが、心のどこかで「スピリチュアルなものにハマれない自分の方がおかしいのではないか」と思っています。そして信じられるものができるなら、とカルトに関わることになります。

終盤のとち狂った展開は半ばギャグのようですが、その状況でも現実を捨てられない主人公が哀れでした。

 

『最後の展覧会』はこの短編集の中では毛色が違う作品です。とある宇宙人と地球に取り残されたロボットの話です。童話SFのような雰囲気で、ダークな展開をしつつも少しほっとする作品でした。

 

挿入されるエッセイも面白く、興味深かったです。

特に「多様性という言葉を使うのが怖い」という意見が心に残りました。

著者は世の中に多様な人々が生きていることは否定していません。しかし自ら「クレイジー」と呼ばれることを許していたらメディアにその言葉を取り上げられ、「人と違う」ことを有象無象にキャラクターとして消費されてしまったことに罪悪感を感じます。

正直そこまで言葉に責任を持つ必要はないでしょうし、他人からの評価は独り歩きするものだと思います。

しかしそこに真面目に責任を感じてしまうところに、著者の魅力を感じます。