このところ、読むのがつらい話が続いています。狙ったわけではないんですが。
これは『バーナード嬢曰く。』の3巻で紹介されていた本です。
あらすじ
金も名声もすべてを手に入れていた研究者サマンサ。彼女は<wanna be>という仮想人格を作り、それに小説を書かせる研究を始めます。しかし同じころ、サマンサが不治の病を抱えていることが判明。死の恐怖から仕事に打ち込むサマンサのために、<wanna be>は彼女のためだけの物語を描きます。
熱烈なSF恋愛小説
すごく恋愛小説ですよね。もしかしたら恋愛と言うくくりにあてはめてしまうのもおこがましいかもしれないんですが……。<wanna be>が最後に下した決断は、やっぱり恋に似たものだと感じてしまいます。
サマンサの役に立ちたいのに、実験道具の枷がはめられた<wanna be>には物語を作ることしかできません。その葛藤が切なかったです。
それでも全力を尽くして「何かお役に立てますか」と言い続けた重み。定型文なんかじゃなくて、それは<wanna be>の存在意義だったんだなあと思います。そして存在意義を与えてくれた人を好きになってしまうのは当然のことですよね。
理屈で固められてはいるけれど、メインストーリーはとても王道な恋愛ものだなあと感じました。
誰もが通る死への道
もう一つ印象的だったのが、サマンサの死への恐怖です。
誰もが通る道であるだけに、深く感情移入をしてしまいました。どんな完璧な人だって死ぬのは恐ろしい。死ぬのが怖くない人がいるとしたら、よっぽどの聖人君主か狂人かでしょう。
サマンサが実家に帰って、心配してくれる両親に出会ったシーンでは泣きそうになってしまいました。許せないこともあるし、わだかまりが消えたわけではないけれど、本心から彼女の病気を心配してくれるという事実がありました。
もし自分が病気で倒れたら両親も同じようなことになるのかな、と思ってすごく悲しかったです。
不治の病というテーマはありがちですが、患者が直面する死の恐怖をリアリティをもって描いているところが恐ろしかったです。
まとめ
不治の病というテーマはえてして感動ポルノみたいになりがちなんですが、徹底的に主人公の恐怖に寄り添うことで生々しいリアリティを生み出していると感じました。
読むのがつらい小説でしたが、<wanna be>の誕生と終わりを見守ることができ、読んでよかったと思えます。
- 作者: 長谷敏司
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/10/11
- メディア: 単行本
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