あらすじ・概要
16世紀、魔女狩りの嵐が吹き荒れるドイツ。そこでひとりの医者が魔女を治療しようとしていた。ヨーハン・ヴァイヤーは、魔女と呼ばれる女性たちの奇行を「病気」なのではないかと思い、魔女と噂される老女や人狼に襲われた事件を調査する。精神医学の祖と呼ばれる医師を描いた歴史漫画。
社会不安によってスケープゴートにされる人々を救いたい医師
Twitterで試し読みがあるのでツイートを埋め込んでおきます。
【魔女をまもる。著:槇えびし】試し読み (1/8)
— 槇えびし 11月20日発売「魔女をまもる。」 (@maki_abc) 2020年11月23日
魔女狩りが横行する16世紀の時代に、医療によって魔女を救おうとした歴史上の人物、
”精神医学の祖"と呼ばれるヨーハン・ヴァイヤーのお話
魔術師、人狼、悪魔の印象、悪魔憑き、黒死病、呪術と医術、そして異端とは pic.twitter.com/DXBgotw3so
時系列があっちこっちに飛ぶ作品なので、一気読みをした方がわかりやすいです。「とりあえず上巻だけ」と言わず思い切って上中下まとめ買いをすることをおすすめします。三巻で約3000円という強気の値段ですが、その価値はありました。
想像と違ったのはミステリ要素があったこと。ヨーハンは魔女と呼ばれる女性たちが病ゆえにそうなっていることを証明するため、「魔女が起こした事件」を調査していきます。このミステリ要素は史実ではなく創作でしょうが、大変面白いです。
ただ、それが魔女と呼ばれた人々によるものだと証明できなくても、常に事件の終わりは苦い展開になります。決して事件が起こる前に防げないというのはミステリの探偵の常ですが、ヴァイヤーが志を持って魔女を救いたいと思っているだけにこっちも苦しくなりました。
ヴァイヤーは罪を犯していない「病」は治療できますが、罪を犯してしまった「病」は救えない。今にも通じる精神医療の悩みでもあります。
かなりメッセージ性の高い漫画ですが、あまり押しつけがましい感じはありません。それは、ヨーハンやその師匠のアグリッパをあくまで「その時代の人」と書いているからでしょう。
ヴァイヤーとアグリッパは当時としては女性の権利を守ったり精神疾患に理解があったり、先進的な価値観を持っています。一方で、悪魔の存在は信じているし、信仰は救いになると疑いなく口にします。それが、当時の「常識」だったからです。
先進的な価値観を持っていても、その時代の常識からすべて抜け出せるわけではありません。そういうリアリティがこの作品の魅力です。
今も精神疾患の人々は差別の恐怖にさらされているし、双極性障害を持つ私もそのひとりです。
精神医療の歴史は闇ばかりなんですが、それでもヴァイヤーのように前に進もうとした医者がいるのはこちらとしても救われます。
おまけで解説。私は大学時代16~17世紀のドイツを調べていたことがありました。
このころは飢饉や戦争、宗教改革による社会不安で人の心が乱れていました。魔女狩りもその影響を受けていたと見られます。
魔女狩りの被害者には男性もかなりいました。(そもそも魔女という単語が男性にも使われる言葉だった)。作中でも男性が「魔女」と呼ばれていますね。
社会不安によりスケープゴートを求める民衆、というのはドイツの全体主義やコロナ禍の日本に通じるものがあります。そんな中でヴァイヤーのような人間がいてくれたら助かるだろうなあ。