今回はコメディ漫画のおすすめです。
今まで読んだ漫画の中から、笑ったりニヤニヤできる作品をまとめました。
学園・青春
『笑う大天使』川原泉 全2巻
聖ミカエル学園という超お嬢様学校に通う三人娘。彼女らはお互いが庶民出身だということを知り、意気投合する。そんな中、女子高の女の子を狙った誘拐事件が多発する。ふざけた理科実験で怪力の力を得た三人娘は、誘拐事件に巻き込まれていく。
のんべんだらりという雰囲気であるとともに人助けをするところが面白かったです。
正直設定の部分はめちゃくちゃなのですが、そのめちゃくちゃさを楽しめるだけどギャグセンス、雰囲気の作り方が上手いです。整合性が取れている=面白いではないと感じさせます。
主人公三人娘も、生粋の主人公気質ではなく、面倒なことを回避しようとしたり、目立つことを嫌がったりするところが親しみやすかったです。
主人公なので結果的に問題を解決するのだけれど、解決した後でも一貫してとぼけたキャラクターなのが趣深いです。
また、ベタなオチからあえて外したような結末が面白かったです。「いつものやつ」じゃない展開がいいですね。
『オモテナシ生徒会』ドリヤス工場 全1巻
女子高にやってきた転校生、赤羽かのこ。彼女はとある人物を探し、写真を見せながら学校の生徒に聞いて回る。生徒会の会長が写真の人物の情報を知っていることがわかったが、なぜか会長と麻雀対決をすることになり……。赤羽かのこの探し人とは、そしてこの学校の真実とは。
面白いのですが、どこからツッコんでいいのかわかりません。ボケ倒しの漫才を見ている気分ですね。
そもそも何でも麻雀やポーカーや花札で解決するような世界観がわけがわからないし、登場人物たちもあまりそこに疑問を抱かないので「待って、置いていかないで!」という気分になります。こんなさくさく話進めちゃっていいんですか?
加えて、繰り返される「どこかで見たような」ネタ。パクリではなくて意図的にオマージュにオマージュを重ねています。何なら最後も角川文庫の巻末に載っている文章のパロディでした。癖が強いですが濃いコメディでした。
『ハンサムマストダイ』アストラ芦魔 全2巻
アイドルファンであるあまり、アイドルのような格好いい振る舞いを好むようになった悠里。しかし、自分がファンだったアイドル、涼が殺害されたことを知り、爆発首輪によってアイドルたちを搾取するシステムを破壊しようとする。その為に、アイドル養成学校に男装して侵入する。
殺人が当たり前のアイドル業界という設定で、主人公がその業界に反旗を翻す話なので、主人公サイドを応援しやすかったです。
アイドルという立場を生かした展開も多かったです。パパラッチとの戦いや、料理番組への出演を前提とした戦いには笑いました。
エンターテインメントの名のもとに搾取されるアイドルたちを救う、下剋上物語で面白かったです。
『ぼくらのフンカ祭』真造圭伍 全1巻
高校生、富山と桜島の住む町で火山が大噴火する。温泉と火山という観光資源を得て変わっていく街に憤りを覚える富山。しかし軽い気持ちで口にした言葉から「フンカ祭」という祭りが町を挙げて行われることになり……。
ゆるい高校生の友情もので、あまり頭を使わずに読めます。作品の根底にあるアホっぽさ、どこか懐かしい雰囲気が楽しいです。
しかしこの漫画、読めば読むほどうらやましい気持ちになってきます。それは富山と桜島の友情がすごく魅力的だからです。
富山のクールさにあこがれている桜島、どこかはすに構えているけれど本当はやりたいことがある富山、その二人が一緒に何かをするというだけで面白いから不思議です。
心から信頼し、あこがれ、一緒に馬鹿なことをやれる友達がいるのは本当にうらやましいですね。
ドラマティックだったり、劇的だったりはしないのですが、読み終わってにこにこできる作品でした。
『カラオケ行こ!』和山やま
中学の合唱部に所属する聡実は、ヤクザの狂児と出会う。彼の所属する組の組長はカラオケ狂いで、カラオケ大会で最下位だった者に罰ゲームを施すという。いやいやながら聡実は、狂児に歌を教えることとなった。一方で、聡実はある悩みを抱えていて……。
ヤクザと中学生のトンチキ系ブロマンス。しかもただ笑えるだけではなくて、演出や設定がきちんと考えられているのがすごいですね。
まずヤクザと中学生とカラオケルームという取り合わせがミスマッチすぎて笑えます。しかし登場人物をヤクザにすることによって荒唐無稽な設定や展開でも「まあヤクザだからな……」と許容してしまう力を持たせています。だって面白ヤクザが出てきたらさあ……。ヤバい罰ゲームのカラオケ大会も中学生への距離感のおかしさも「そういうものかな」と思うじゃないですか?
そしてトンチキな物語でありつつ王道も抑えています。声変わりによって自分の合唱パートが歌えなくなりつつある聡実は、不安と鬱屈を抱えています。その鬱屈が、狂児に出会いカラオケを教えることによって溶け出していき、クライマックスで完全に解毒されます。
この解毒の仕方もめちゃくちゃなんですが、これもなぜか納得してしまうんですよね。悔しい。
『ほしとんで』本田
八島大学藝術学科に在籍している流星が入ったのは、ゼミの中でも特に地味な俳句ゼミ。しかし教授の指導や、個性豊かなゼミ生たちと交流していくうちに、俳句の面白さに目覚めていく。句会、吟行、連歌など、俳句ならではのイベントに参加する流星たちは、そこで言葉を紡ぐ楽しさを見る。
創作をやるオタクあるあるが多すぎて笑ったり身につまされたり。特に小説を書く女性、薺の感想に一喜一憂してしまうところには「わ、わかる!」となってしまいました。
貶められることも褒められることも過大に感じてしまって、挙動不審になってしまうところが他人とは思えませんでした。
それでいて、描き方がコメディなのでイタいシーンがあってもあまり深刻にならずに読めます。どれだけ面白おかしく書いても、決して創作をやる人間をばかにするような描写はしないし。
そして俳句を通して、俳句ゼミの学生たちは小説や漫画など自分の創作に対して少しずつうまく付き合えるようになっていきます。創作に向き合う面白い漫画でした。
ミステリ・サスペンス
『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』船津紳平
有名ミステリ漫画『金田一少年の事件簿』。金田一耕助の孫の金田一一が事件を解決するシリーズだ。その漫画の裏には、犯人たちの苦労秘話があった。『金田一』で語られたそれぞれの事件を取り上げ、そのトリックを倒叙ミステリの形で展開するスピンオフギャグ漫画。
頭のいい人が考えるギャグ漫画という感じです。『金田一少年の事件簿』を読みこみ、トリックの順序やしくみを深く理解して、コメディタッチに変換する。読んでいる方もトリックを理解するために頭を使います。
この作品がメタフィクションとして優れているのは、「ミステリのトリックって、よく考えたら無理があるよね」というあるあるをギャグとして昇華しているところです。やたらと体力仕事だったり、運要素が強かったり、特殊技能が必要だったりします。その無理の部分に犯人たちのモノローグでツッコミを入れるから笑えます。
『金田一少年の事件簿』も開始から20年以上経っていて、今の価値観では古くなってしまったセクハラ行動、主人公側の犯罪的描写も含まれています。その部分にも積極的にツッコミを入れていくのがまた笑えます。
現代では古くなってしまった作品に新たな視点を加える良スピンオフです。
『月館の殺人』佐々木倫子 全2巻
母親を失い、富豪であった父方の祖父の家に招かれた女子高生、空海(そらみ)。館へ向かう高級夜行列車「幻夜」に乗り込むと、そこには5人の男がいた。鉄道を愛する奇妙な男たちに困惑していると、そこで殺人事件が起こった。犯人は、幻夜の乗客とスタッフの中にいるはず……。
個人的にコメディ系の人が死ぬミステリは、「人が死んでるのにコメディやってる場合ではないだろ」という気分になって楽しめないことが多いです。それでもこの『月館の殺人』は結構楽しめました。
作画担当、佐々木倫子の元々の作風に助けられているところがあって、不謹慎さも行儀の悪さも「そういうギャグなんだな」と思えます。
トンチキ感が楽しいミステリでした。
作品の随所にちりばめられている鉄オタ知識は面白いんですが、あまりに露悪的すぎて本物の鉄から苦情が来ないか心配です。
列車の備品をくすねるキャラや、鉄趣味が原因で離婚したキャラもいます。
こんな鉄はいない! と主張すると作品の中の「鉄は自分が鉄ではないと主張する」というネタに抵触してしまうので質が悪いですね。いや私は笑っちゃうけど。
日常・現代
『この度はご愁傷様です』宮本福助
放蕩者だった父が死んだ。葬式を終えた三きょうだいと孫、仁は、彼の残した家の片付けのために集まる。そこで見つかったビデオレターから、三人はダーツで遺産分配を決めることに。しかし、父の残したドタバタ劇はダーツだけではなかった。親の死をテーマにした連作短編。
気楽な気持ちで読めるコメディでした。父親の遺産を巡って大騒ぎして、最後はトホホな展開で終わるという繰り返しです。
コメディっぽく描かれてはいるけれど、三きょうだいのキャラクター設定ははどこかにいそうなリアリティがあります。それがまたおかしく、共感してしまいます。
「父親の死」というシリアスなテーマを扱いながらも、明るく楽しく、ちょっと優しい雰囲気で進行するところが面白かったです。それでいて、不謹慎にならない塩梅なのがすごいですね。
恋愛
『逃げるは恥だが役に立つ』海野つなみ
大学院を出ても正社員として就職できなかったみくり。派遣切りに遭って求職中のみくりに、家事代行の仕事が舞い込んでくる。雇い主平匡(ひらまさ)と良好な関係を築いたみくりは、「就職としての結婚」を提案する。
ジェンダー論の人が評価していたので、なんとなく難しい漫画なのかなと思っていましたが、意外と軽やかで笑える漫画でした。
登場人物の恋愛模様がみんなかわいくて、女性向け漫画としてちゃんと面白いです。
そんな漫画がなぜいろいろな人の心を打ったのかというと、結婚に対するもやもやや、恋愛に対する固定観念を言語化して表現したからだろうなと思います。
その表現の仕方が本当に上手くて、男性読者が多いのもさもありなんという感じです。男性キャラが女性にとって都合のいいキャラではなく、一人の人間として尊重され、恋愛をしています。
読者の対象になっていない性別のキャラっておざなりな描写にされがちです。その点この漫画は優しいですね。
SF
『レベルE』冨樫義博
野球進学のために親元を離れた高校生、雪隆のマンションに、記憶喪失の宇宙人を名乗る男がいた。自由すぎる彼のせいで、雪隆はトラブルに巻き込まれることに。稀代のトラブルメーカーでいたずら者の「バカ王子」をテーマにしたSFコメディシリーズ。
どこまでもベタを拒むひねくれた内容ではありますが、そこが私みたいにひねくれた人間には心地いいんですよね。
あと著者の女性の描き方が好きなんですよね。基本的にベタなヒロイン像は描かないし、男にもめったに媚びません。媚びることがあっても、媚びることを武器にしている女性が多いです。マクバク族のサキ王女はその極みで、クラフトの前では庶民的な女性を演じつつも、裏では種族の本能に忠実な、戦闘力高い女性であることがわかります。
こういう男に都合の悪い女が大好きなんですよ。HUNTER×HUNTERもそういう女性がいっぱい見られるから好きです。
どの回も好きなんですけど一番好きなのはカラーレンジャー編ですね。バカ王子が小学生を戦隊ヒーローにしてしまう話です。
バカ王子に対抗する生意気な男子小学生たちが元気で楽しいですし、最後のオチも最高です。
『ハカセの机上な愛蔵』時田
純真無垢だが一般常識がないハカセと、彼女の唯一の友人でありハカセの奇行にいつも巻き込まれている「君」。ハカセの作る発明品のせいで、ふたりは毎回トラブルに巻き込まれてしまう。近所の小学生、くおりあも加わって、ドタバタコメディは加速していく。
性癖がすごかったです。天才的科学者ではあるがどこか抜けていて一般常識を持たないハカセと、その唯一の友達でありハカセに恋心を抱いているらしい「君」。
基本的にはハカセが周囲をしっちゃかめっちゃかにして「君」が巻き込まれる構図なのですが、だんだん「君」の激重感情がひどくなっていくのが怖いです。
その性欲、独占欲、恋愛感情は正直気持ち悪いですが、ちゃんとエンタメとして笑える範囲になっているところがすごいです。漫画がうまい。
ハカセ自身も倫理がないので、破れ鍋に綴じ蓋だなあ、と受け入れられてしまうのが面白かったです。
絵柄自体は性的ではなく、むしろ色気がないのに、ハカセと「君」の関係性には特殊性癖を感じます。
『バビロンまでは何光年?』道満晴明
地球最後の生き残りだが記憶喪失な青年、バブ。拾ってくれた宇宙人とポンコツ宇宙船で三人で旅をしながら、生存本能に基づいて種を撒いたり鬱になったり。バブは自分の記憶を取り戻すためには、四次元人という時間や空間を自在に行き来する存在に会う必要があると知るが……。
特にTSF好きな人は一回読んだ方がいいと思います。「癖」を感じる。
主人公は作品の途中でナノマシンによって女体化するのですが、その後男や女と寝たり、女の状態で「パパ」になったり、さらっと女の体に適応しているのが逆に面白いです。
それでも下品にならないのは、明るいコメディチックなノリと、不謹慎とまともを行き来する独特の世界観ゆえでしょう。
この作品では結構雑な理屈でワープが可能だったり、パーカーが宇宙服だったり、ナノマシンが万能だったりします。
SFとしてはゆるふわであまり考証はされていなさそうですが、「SFっぽいエッセンス」はたっぷり入っているので楽しいです。
宇宙船に乗った男三人の珍道中、宇宙人たちの特殊な生活、四次元人の謎などなど。
ファンタジー
『ダンジョン飯』久井諒子
ダンジョンで妹、ファリンを失ったライオスは、残ったパーティメンバーでファリンを回収し蘇生しようと試みる。しかし食料はなく、ダンジョンで自給自足することを迫られた。魔物オタクのライオスはダンジョンに住まう、魔物を調理、実食しながらダンジョンの深部へ向かう。
シビアでブラックなコメディ要素と、世界の真理に近づいていくハイファンタジー要素が絡み合う傑作です。
最初はファンタジーあるある+グルメのコメディでしたが、ストーリーが進むにつれ世界観に深みが増していき、世界のなりたちに迫るというハイファンタジーになっていきます。
魔物オタクのライオスがオタク知識で解決したり、オタク知識のせいで周囲に迷惑をかけたり。オタクとして解像度が高いのが良かったです。
『ざ・ちぇんじ!』竹内直美
平安時代のとある帝の時代。綺羅姫と綺羅中将は、実は性別が逆。綺羅中将は女なのに女性と結婚する羽目になり、綺羅姫は尚侍として女東宮に使えることとなる。嘘が嘘を呼び、事態は混乱したまま綺羅中将が妊娠したと勘違いしてしまい、周囲の人間を置いて失踪する。
原作の氷室冴子の『ざ・ちぇんじ!』が『とりかえばや物語』の翻案なので、この漫画はさしずめ三次派生作品といったところでしょうか。
原作のあらすじはなぞりつつも、改変をした部分も多いので、『とりかえばや物語』について知りたい人は他のコミカライズを当たったほうがいいでしょう。
ラブコメとしてはとても楽しいです
女性から見てかわいいと思えるキャラクターが多くていいですね。三の宮は一途だし、女東宮はわがままだけどたくましいし、癖があっても魅力的です。
あり得ないような展開が続くのですが、それでもさくさく読めて笑える面白さです。
男たちのドタバタも楽しかったです。
以上です。参考になれば幸いです。