ブックワームのひとりごと

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【恋愛に限らない物語】女と女の関係性を描くおすすめ小説・漫画・映画24選

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作品をいろいろ摂取していると、百合というと大雑把すぎるけれど女性と女性の関係性を描いた作品を見かけます。

今日はそれらの作品で面白かったものをまとめました。

 

 

 

小説

不良少女の漫画を手伝うはめになってしまったけど彼女の夢を応援したくなった『スイレン・グラフティ わたしとあの娘のナイショの同居』

多忙な母親を持ち、双子の弟妹の世話をしながら生活している彗花は、クラスメイトの不良少女、蓮が漫画を描いていることを知ってしまう。さらに彼女の原稿用紙を双子が汚してしまい、彗花は償いとして蓮の新人賞応募を手伝うことに。原稿をしているうちに、蓮と彗花は心を通わせていく。

見どころは彗花と蓮の関係性です。安易に「それっぽくエモい」描写に頼らず、丁寧に違った境遇や価値観を持つふたりが仲良くなっていく描写を積み重ねていきます。

また、テーマになっている「漫画」の描写もしっかりしています。

漫画に関するフィクションは、実際のところ「どうやって漫画を描くか」の部分はふわっとしていて、精神面の話をして終わってしまうことが多いのですが、この小説は漫画を描く過程をきちんと書き込んでいます。

創作が人を支えてくれる、そのことを教えてくれる作品です。

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中央アジアの国の、政治と戦争とシスターフッド『あとは野となれ大和撫子』

アラルスタンの戦争で両親を失った日系少女、ナツキ。彼女は後宮(事実上の学校施設)に入り、そこで学んでいた。しかし現大統領が暗殺され、議員たちは逃げ出した。後宮の少女たちは自ら政権を取り、アラルスタンのかじ取りをしていく……。

政権を担う少女たちは故国から逃げ出してきた訳ありの子たちばかりで、そんな彼女らがアラルスタンという未熟な国をなんとか立て直そうと紛争する姿は、見ていて応援したくなります。

政治と戦争にまみれた世界で確かにある、少女たちのシスターフッド。過激でどこか懐かしく、ほほえましくも悲しかったです。

リアリティのある架空歴史ものを読みたいと思っている人には向かないけれど、作中で少女たちが上演する演劇のように、虚実織り交ぜていくところが面白かったです。

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強烈な個性を持つダンス教師の数奇な過去とは『オリガ・モリソヴナの反語法』

ダンサーの道を諦めて翻訳家になった広世志摩は、かつてチェコスロバキアの学校でオリガ・モリソヴナという教師に出会った。強烈な個性を持ち、多くのダンサーを育てた彼女の謎を解くために、志摩はロシアを訪れる。親友カーチャとオリガの数奇な過去を追ううちに、ソ連時代のロシアの歴史に触れる。

著者の半自伝的エピソードに、旧ソ連を生き抜いた老女の人生が乗せられているのですが、この老女の話はフィクションです。しかしそのフィクション部分が大量の参考文献を通して形作られていて、読んでいて事実とフィクションの境界線がわからなくなります。

ソビエト政権下でのロシアの過酷な環境、そしてそこで行われる女性同士の助け合いが印象的な作品です。

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清少納言から中宮定子への熱烈な主従愛『はなとゆめ』

宮中に出仕することになった清少納言は、そこで中宮定子の聡明さ、優雅さに惹かれる。中宮定子や貴人たちとの交流に、頭のいい清少納言は機転を利かせて雅に答え、それを評価される。しかし次第に、藤原道長の権力が、中宮定子にまつわる人々を脅かし始める。

恋かと思うくらいに熱烈に中宮定子を愛する清少納言、しかし彼女にも夫がいるし定子は一条帝の正妻です。

実際、清少納言は「中宮の心を独占してみたい」という思考に近いところに至ります。異性愛の規範にどっぷりつかりながらも、定子という女性に焦がれあこがれ、うっとりと見惚れていた結果の思考です。

平安時代なので女性の地位が低かったり、家父長制が強かったり、身分の差が激しかったりと、今の社会とは違う部分がたくさんあります。

それでも違和感なく読めたのは、心理描写が丁寧で、価値観が違うながらも清少納言に心を寄せることができたからでしょう。

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暴走族少女とマスコットの危うい関係『製鉄天使』

製鉄所の社長の娘赤緑豆小豆は、その鉄を操る能力でレディースとして成り上がる。その後部座席には、マスコットの菫がいた。中学卒業をきっかけに、小豆と菫は離れ離れになるが……。

魅力的なのは、主人公小豆とマスコットの菫の関係性です。

ちゃっかりしていてタフで狡猾で、でも憎めない菫。そんな菫が、救いようのない闇を吐露するシーンはつらかったです。

そんな菫を愛し、不器用なほど彼女のことを考える小豆も、見ていて悲しかったです。

文体は、あえてのチープさ、作りもの感を持たせながら、音楽のようにテンポよく進んでいきます。暴走族という「フィクション」を生きている小豆には、似つかわしい文体でした。

血生臭いのにかわいくて、ポップで、それでいて無常感もある。様々な要素を詰め込んで、破綻せずに書ききる筆力はすごいです。

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京橋のキャバレーで女と女が共同生活を送る『グランドシャトー』

義父と結婚させられそうになって逃げだしてきたルーは、京橋のキャバレーグランドシャトーにたどり着く。ルーはそこのホステスとして働くことになった。キャバレーのナンバーワン、真珠はどこか不思議な魅力を持つ女性だった。ルーは寮で真珠と同居することになる。

ルーが真珠に母親を投影する姿は、一見微笑ましく見えても危うさが伴います。ルーが実質的に家族を失い、孤独になってしまってからはその危うさが加速します。

寮でチキンラーメンを食べ、自炊をし、ほのぼのとした関係を結ぶ一方で、ルーは真珠のために傾いたグランドシャトーを立て直そうと奔走します。不景気を盾に若い女の子を雇ったり、自ら露出度の高い過激なファッションをしたり、倫理的には正しいとは言えない行動も取ります。

しかしそれだけルーが真珠という女性に執着しているという証でもあります。

女性ふたりの純粋でありつつもどこかアンバランスな関係が印象深かったです。

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人類が衰退した世界でのほのぼのブラックSF『人類は衰退しました』

人類最後の最高学府を卒業し、故郷に戻ってきた「わたし」。そこで調停官という仕事に就くが、実質お飾りの役職らしい。調停官の「わたし」は今地球を支配する新人類、「妖精さん」にコンタクトを取り、交流していくが……。

基本は妖精さんとのほのぼのブラックなやりとりがメインです。しかし主人公「わたし」と「友人Y」の悪友っぷりが愛しくておすすめです。

それぞれちょっとひねくれた「わたし」と「Y」が時に協力し、ときにけなし合ったりするところが好きです。

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口も態度も悪い勇者はひたすら人を助け続ける『勇者、或いは化け物と呼ばれた少女』

駆け出し冒険者のマタリが出会ったのは、自らを「勇者」と名乗る少女だった。勇者はその桁違いの力で、魔物や危険人物を排除していく。しかし純真で天然なマタリは、勇者を怖れず自ら彼女についていく。なりゆきで仲間も増え、勇者たちは4人で冒険を続けていく。

勇者のパーティーは4人とも女性で、男キャラも登場するけれど彼女らの関係に挟まることはありません。基本的に4人で助け合い4人で感情も完結していきます。

ある意味百合っぽいのですけど、ちゃらちゃらしていたりきらきらしていたりはしなくて、地に足のついた関係です。女性に夢を見ている感じがなくていい。

激重感情があるわけではないんですが、女同士がわいわいしているのっていいよね、と思える関係性です。

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漫画

 

迷宮世界で女同士のバディが探検する『百万畳ラビリンス』

人と関わるのが苦手でゲームばかりしていた礼香は、友人の庸子とともに不思議な世界に迷い込んでしまう。いくつもの部屋が連なり、謎の法則でできている世界を、礼香は持ち前の行動力と洞察力で攻略していく。どうやらこの世界には、人類の命運がかかわっているようで……。

最高の同性バディものでした。天才的なゲームのセンスを持ちながら、社会に溶け込めず生きづらさを抱えている礼香と、向こう見ずな礼香を心配し寄り添おうとする庸子。このふたりがタッグを組んで不思議な世界を攻略していくのが熱いです。

礼香はこの迷宮世界の攻略、庸子は自分の恋人や日常と、それぞれ相手とは別の大切なものを持っているところも「友情もの」として素晴らしいです。女ふたりの物語でありながら、関係が閉じていきません。

私はゲームはそれほどやらないのですが、読み進めるほどに混沌としていた迷宮のルールがわかってきて、主人公たちが自在に動けるようになるのが面白かったです。

礼香がめちゃくちゃ頭のいいキャラなので、攻略がさくさく進み読んでいて退屈しません。上下巻とは思えないくらい中身が濃い作品です。

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日本とサウジの女の子がアメリカでルームシェア『サトコとナダ』

アメリカに留学したサトコは、サウジアラビアから来たナダとルームメイトになる。ムスリマであるナダとの暮らしは発見がいっぱい。そんな中、ナダは親が決めた相手と結婚をしなければならないらしく、悩み始める。

サウジアラビアと日本、ユーラシア大陸の端と端に育ったふたりの文化的ギャップをときにおかしく、ときにシリアスに描いていきます。

女性に自由がないサウジアラビア。祖国を愛する気持ちと、もっと自由に生きてみたいという葛藤を抱えているナダは見ていて苦しかったです。でもナダは強くて前向きで、自分自身を愛している。そのポジティブさはかっこよかったです。

一方のサトコは、日本で抑圧していた気持ちを、ナダやアメリカの友人と接する過程でどんどん出すようになっていきます。「わたし」というものを確立していくサトコの成長は見ていて勇気づけられました。

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日常の中の小さな悲しみを抱えて生きていく『愛すべき娘たち』

大病から生還した母は、これをきっかけに結婚すると言い出した。その相手とは、娘よりも年下の俳優で……。一組の親子を中心に、それぞれの人間関係が描かれる連作短編漫画。

女同士の家族の愛と葛藤。愛しているけれど、すべてを受け入れられるわけではない。登場人物たちの悩みが、切実なものとして表現されています。

ままならない価値観の違いや自分自身の問題を抱えていながらも、それでも生きていく女性たちがかっこよかったです。

淡々としていながら「あるある」と思える作品でした。

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女性同士が手を取り合って嫁姑の戦いをする『かんかん橋をわたって』

三つの地区に分かれている町で、川南(かーなみ)から川東(かわっと)へ嫁いできた渋沢萌。優しい夫とともに、嫁として毎日頑張っているが、どこかうまくいかない。そんな折、萌は自分の姑が「川東一のおこんじょう(意地悪)」と呼ばれていることを知る。自分の家族を信じたい萌はそれを否定するのだが……。

川東には「嫁姑番付」なるランキングが存在することが判明。その辺からツッコミどころが多くなってきますが、物語は気にせずどんどん進行していきます。そしてついには、川東を覆っている悪しき文化、その文化を創り出しているラスボスと対決することになります。

どろどろしていつつも女性同士の友情や信頼、共闘関係が描かれていてさわやかなシーンも多いです。弱い立場にある女性同士が助け合い、手を取り合って社会の理不尽に立ち向かっていく、シスターフッドの物語なんですよね。少年漫画という評もあるけどこの点は女性向け漫画だと思います。

女性同士が協力する姿っていいな……と思える作品です。

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同性も異性も恋愛抜きでパートナーになりうる『大奥』

男子だけが感染する奇病が蔓延した江戸時代。女性と男性の力関係は逆転し、女性が家督を継ぐ社会となった。そして、江戸幕府の長、将軍も女に。その大奥では、全国から美男が集められ、将軍の寵愛を争っていた。徳川の時代が進むごとに、社会の仕組みも移り変わり……

ストーリー自体はめちゃくちゃ過酷ではあるんですが、根底にある人間観はとても優しいです。

フィクションではありますが歴史ものという関係上、道半ばで死んでしまうキャラクターがとても多いです。しかしそれは、無意味な死ではない。誰かが何かを引きついで、次の新しいものに変えていきます。

また、恋愛や性的関係だけではなく、恋愛抜きでパートナー関係になる同性、異性が多く、関係性のオタクとしても楽しいです。

恋愛も、恋愛でなくても、人と人が思い合う姿は美しいと思える作品です。

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「足りない」中学生たちの優しく痛い青春『ちーちゃんはちょっと足りない』

中学生のちーちゃんは、おバカだけれど友人と楽しく暮らしている。友人のひとり、ナツもちーちゃんが好きだ。しかし、女子バスケ部が顧問の誕生日プレゼントを買うために集めていたお金がなくなった。その事件をきっかけにナツとちーちゃんの関係は狂い始める。

主人公のちーちゃんは頭はよくないものの天真爛漫で、周りの友人は彼女を大切に思っています。その優しさが心地よかったです。

しかし心地いいだけで終わらないのがこの作品。思春期特有の「愚かさ」が、友情の歯車を狂わせ始めます。

罪というものがわからないゆえに罪を犯してしまったちーちゃん。それを見て葛藤するナツ。幸せなだけではない友情関係が面白かったです。

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60歳になった女の幼馴染三人組が同居を始める『ルームメイツ』

働きづめで結婚できなかった女、結婚生活が嫌になって逃げだした女、妻子ある男の愛人として生きた女。幼馴染である彼女らは60歳になり、思い立って同居を始める。自らのこれまでの人生を振り返りながら、新しい出会いや別れを経て老年の日々を過ごす。

徐々に妻からの離婚を受け入れていく夫、仕事に夢中でいたかったけれど子どもを持つことを決断した女性など、「変化すること」がこの作品のテーマになっています。

その変化にはどこか物悲しさを伴いますが、「変化によって生き方を変えることは恥ではない」という暖かいメッセージも感じます。価値観なんて変わって当たり前で、それでも今までの人生を否定する必要はないのだと。

60歳になり、永遠などないのだとしみじみ感じる時期になって、人生に迷い、また決断をする三人組の姿には励まされました。

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棺を担いだ女性が呪いを解く方法を探して旅をする『棺担ぎのクロ。~懐中旅話~』

大きな棺を背中に担いで、街から街へ、国から国へ旅を続けるクロ。コウモリのセン、人造人間のニジュクとサンジュとともに、自身に呪いをかけた魔女の行方を探していた。クロにかけたれた呪いの秘密とは……。

基本は旅人クロが街を訪ねて去っていく四コマ連作短編ですが、ページをめくるにつれて少しずつクロのことが明かされていきます。彼女は呪いをかけられていて、呪いを解くために魔女を探していて、どうやらその呪いが極まったとき、クロの命が危ないようで……。

連作短編のそれぞれのストーリーとしても、常に死の影が付きまとっています。生粋の悪人はめったに出てこない、絵本のような世界観なのに、ゲストキャラクターたちは何か悲しい思いを抱えています。牧歌的な世界観の中にちりばめられているふとした闇こそが、この作品をダークファンタジーに分類させているのだと思います。

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魔女たちが暮らす街にやってきた、人間社会育ちの魔女が人助け『魔女ヶ丘通信』

人間の村で暮らしていた魔女、マノンは人間と魔女が共存する街ウェネリーフィカにやってきた。初めて見る自分以外の魔女との交流にカルチャーショックを受けつつ、マノンはウェネリーフィカで生きていく術を見つける。それは、お菓子を作って売ることだった。

「魔女」と「人間」の二種類の種族がいる社会で、魔女は魔法が使え、人間より体が強く、寿命も長いです。

魔法が使えて身体が強い分魔女は大雑把で適当で、繊細な能力に欠けます。そんな魔女の欠点を、人間社会育ちの魔女である主人公マノンがコミュニケーション能力や器用さで補っていくというストーリーです。

基本的に前向きで、童話的で牧歌的な世界観ですが、主人公マノンの相棒に意外な過去があったり、意地悪で嫌なキャラクターにひょんなことから助けられたり、何気ない魔女たちの多面性が面白かったです。

優しい世界だけれど甘やかしすぎないような世界観・人間観が好きです。

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姉妹を中心にこじれ続ける三角関係『春の呪い』

春が死んだ。夏美は妹の婚約者、冬吾と交際を始める。条件は「春と行った場所を巡ること」。夏美の妹への執着、冬吾の恋心と罪悪感。思いはこじれにこじれ続ける。果たして二人の「呪い」の行く末は……。

夏美の妹への執着、春の姉への憎悪、そしてその間にある冬吾の恋心と、三角関係はこじれ続けます。

この作品のもう一つのストーリーが主人公二人の親からの自立です。二人はお互いを知ることによって、自分たちが家庭に縛られていることに気づきます。

二人の抱えている呪いは、春によるものだけではなかったというところが印象深いです。親からの呪いは簡単に解けるものではありません。しかし二人が前を向いて歩きだしたことこそが救いだなと感じました。

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映画

 

だめだめな男女関係でも主観では運命『自虐の詩』

大阪の下町に、短気な男イサオと暮らす幸恵。気に入らないことがあるとたびたびちゃぶ台をひっくり返してしまう彼を、幸恵はけなげに愛している。周囲の人間はそんな幸恵を心配しているが、そのころ幸恵の妊娠が発覚。不安定な生活やイサオの性格を思い、産むかどうか悩む幸恵だったが……。

だめな伴侶ではありますが、イサオは幸恵にとっては運命の相手であり、どうしようもなく惹かれてしまうのだろうなと思います。

回想に登場する中学時代のクラスメイト、熊本と幸恵の女の友情もよかったです。美人でもなければ特別な能力もないふたりが、ときにけんかもしつつ仲良くなっていきます。恵まれない境遇の人間同士、社会の荒波の中でサヴァイヴしていく勇気を与えあう関係が本当にかっこよかったです。

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自虐の詩

自虐の詩

  • 中谷美紀
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抑圧された中華系女性がマルチバースからすべてを得、娘を救う『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

中華系移民のエヴリンは、夫ウェイモンドとともに税金の申請をしようとしていた。その途中で、ウェイモンドが別人のように変貌し、彼女にマルチバースを救ってほしいと頼む。彼はアルファ・レイモンド、他の世界からやってきた人間だった。エヴリンは事件に巻き込まれながらもマルチバースから力を借り、覚醒していく。

エヴリンは、世界を救う戦いに巻き込まれ、黒幕ジョブ・トゥパキから娘ジョイを助けたいと思う中で、たくさんの自分のあったかもしれない未来を見ます。

戦いを重ねる中でいくつもの世界線が混乱していき、エヴリンの「設定」も、ものごとの因果も、狂っていきます。

お互いに自分の欠点を投影し合うような、エヴリンとジョイの関係には、苦いものを覚える女性は多いのではないでしょうか。

エヴリンが最後に父親からの抑圧から脱却しようとしたのと同じように、ジョイもまたエヴリンからの抑圧から卒業し、新しい時代を生きる女性になってほしい。そう思いました

家族を大事にしようというオチながら、テンプレ的に感じないのは、エヴリンが家族を作らない世界でも、彼女があがいて生きていたからでしょう。他世界がどうあれ、「今」のエヴリンが選べる最良の道を選んだラストに、心打たれました。

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大人になった五人の女性は地元の県にキャンプ場を作る『映画 ゆるキャン△』

大人になり、ばらばらの場所で生活している野外活動サークルの面々。山梨の町おこしに携わる大垣千明と出版社に勤める志摩リンが再会したことから、使われていない施設の土地を使って、キャンプ場を作ることに。しかしその過程は前途多難で……。リンはキャンプ場計画のリーダーとして奔走する。

卒業とともにばらばらになった女の子たちが、青春を過ごした場所に戻ってきて、その土地のために何かを成し遂げる。家族や地元の人の協力を得ながらも、みんなで仲良く作業をします。

実際のところそうそう上手くいかないのでしょうが、『ゆるキャン△』はおとぎ話だから多少ご都合主義でもいいでしょう。

また、基本はハッピーで前向きな内容ながらも、過疎化が進み小学校の統廃合が為されていることや、作品のマスコット的存在の犬ちくわが老犬となり残り少ない生を生きている描写があり、作品に適度なほろ苦さを出しています。

かわいい女の子が仲良くするストーリーですが、どこか哀愁が漂う作品でした。

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BLをきっかけに繋がる女子高生と書道の先生の老女『メタモルフォーゼの縁側』(実写映画版)

書道の先生をしている雪は、ふと立ち寄った本屋でBLと出会い、その魅力に夢中になる。高校生で本屋のアルバイト、うららは、そんな雪に職場の本屋で出会い、仲良くなる。BL本を貸し借りしたり感想を話し合ったりするうちに、うららは、オリジナル同人誌の即売会コミティアへの挑戦を考えるようになる。

ひたすら(老女の雪を含めて)女性がかわいい映画でした。1年分のかわいいを浴びた気がします。見た目がかわいい、というだけじゃなくて、ひとつひとつのしぐさ、性格や背景に合ったファッション、表情、そして何より関係性がかわいいです。

別に男性向けコンテンツが嫌いなわけじゃないんですが、女性向けコンテンツから取る「女性のかわいさ」からしか得られないものってありますよね……この映画がそれでした。

創作活動をベースに、女性同士が仲良くなる姿を描く、優しい話でした。

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アイドルオタクの女の子の怒りと友情『私ときどきレッサーパンダ』

優等生のメイは、実はアイドルオタク。彼女はある日レッサーパンダになってしまう。それは一族の特異体質であり、儀式を行えばレッサーパンダは体から出ていくらしい。しかし、メイはアイドルグループのチケット代ほしさに、レッサーパンダの外見を利用して……。

メイは冴えない外見ですが、冴えない外見のまま、自分にできることを見つけて自信を持つところがよかったです。そして外見がさほど変わらなくても、自信や自己肯定感を身につけると態度や立ち振舞いが変わり、魅力的に見えます。ファッションや化粧より、その部分を描いてくれたのがうれしいです。

そしてその変化をもたらすのが、家族や教師ではなく、友達というのも好きです。守られるだけの子ども時代を抜けて、対等な立場で助け合う相手を見つけていくメイを応援したくなりました。

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現実世界の住人はおとぎ話の住人に勝てない『シンデレラ』

親の再婚により継母と一緒に暮らすことになったエラ。しかし父親は死に、シンデレラ(灰かぶり)とあだ名をつけられ継母にいじめられるようになった。ある日シンデレラは見知らぬ男性に助けられ、彼との再会を望む。

しかしこの作品で白眉なのはシンデレラの継母の描き方。美しく利発な彼女は、夫を亡くし、金銭的に頼るためにシンデレラの父と再婚します。

彼女がシンデレラをいじめるまでの過程のどうしようもなさがつらいです。女性が一人で生きていけない時代に生まれ、馬鹿な娘を二人抱えて、望んでいない結婚をしなければならなかった彼女の心の内を察すると……。

主人公はシンデレラなのに、継母にすごく同情してしまいます。もちろん継母のやったことは許されるものではありません。しかし要所要所で「こうすればここまでひどくならなかったのでは」という部分があるのでそれがなんともつらいです。

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以上です。興味があれば読んでみてください。