ブックワームのひとりごと

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岩波ブックレットのおすすめ本まとめ22選 労働問題・人権・メンタルヘルス

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今日の記事は、岩波ブックレットのおすすめ本です。

岩波ブックレットとは、岩波書店が出版しているA5サイズの小冊子です。時事問題や社会問題について、コンパクトにまとまった文章が読めます。

岩波ブックレットの中から、大まかにカテゴリ分けしつつ、

 

私が面白いと思ったものを紹介します。

 

 

 

労働

『非正規公務員という問題 問われる公共サービスのあり方』上村陽治

非正規公務員という問題――問われる公共サービスのあり方 (岩波ブックレット)

市民の生活を守るはずの行政の現場で、非正規公務員たちが雇用の不安定さや賃金の少なさにあえいでいる。公立学校の非常勤講師や婦人相談員などの例を上げ、これからの行政での雇用を考える本。

単純作業だから、勤務時間が短いからではなく、重要な仕事が非正規雇用でなされていることを知りました。

後半は非正規公務員問題を重く受け止め、不平等をなくそうとする議員や自治体の試みが書かれています。

裁判でも非正規雇用公務員の問題が取り上げられ、行政に改革を促していたことは初めて知りました。

岩波ブックレットは手軽に読めて好きなのですが、対策に取り組んでいる人たちの紹介が薄いので、もっとこういうことを書いてほしいです。問題だけ提起されても、一般市民として誰を応援すればいいのかわからないし。

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『官製ワーキングプアの女性たち あなたを支える人のリアル』竹信三恵子・戒能民江・瀬山紀子編

官製ワーキングプアの女性たち――あなたを支える人たちのリアル (岩波ブックレット)

フルタイムで働いても貧しいままの人「ワーキングプア」。人々を支えるはずの行政の現場でも、ワーキングプアを産んでしまう構造があった。その被害者は主に女性である。編者自身の意見や、実際に公務員で働く女性たちの声を取り上げ、官製ワーキングプアについて考える本。

何度も繰り返されるのは、女性のための相談活動や、保育士など、女性の選択肢を増やし守るはずの仕事において「女性の搾取」が行われていることです。大きな責任が伴い、経験が必要なはずの仕事に、十分な賃金が得られていません。これは男女平等を推し進める上での大きな矛盾でしょう。

また、行政の人件費削減において、大きな役割を果たしていたのが女性パートの存在だということがわかります。正規職員を減らし、非正規職員を増やした結果、低賃金で働く女性パートが激増したのです。彼女らは最低賃金で働き、不要になったら夫や家庭に返せばいい……そういう思想が見え隠れします。

編者たちの意見も、当事者である公務員女性の声も、現場をよく知っているからこそ書けるものでした。強い現実味と、悲しさを覚えました。

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『介護職がいなくなる ケアの現場で何が起きているのか』結城康博

介護職がいなくなる: ケアの現場で何が起きているのか (岩波ブックレット)

少子高齢化によって、介護需要は高まる一方なのに、介護の仕事をする若者は増えない。労働条件の悪さや、介護施設内での暴力、介護施設でのパワハラ・セクハラ、外国人介護職への支援の乏しさなど、現状の問題を語る。介護から見えてくる、高齢化社会の困難さとは……。

介護職の友人から愚痴をいろいろ聞いているゆえに、知っている問題も多かったですが、改めて本にまとめると気が滅入る内容が多いです。

慢性的な人手不足ゆえに、雇う人間を選ぶことができずに虐待や不適切な対応が横行し、また、パワハラ・セクハラが発生しても介護職の人間を保護する土壌がないなど、暗い内容が続きます。

また、外国人を受け入れて介護職をやってもらうにも、日本では外国人労働者の定着支援が十分ではなく、海外に出稼ぎに出る外国人にとって魅力的な職場ではないことがわかります。

読んでいて暗い気持ちになりますが、「親の介護が必要になっても施設に預ければいい」と楽観的に考えている人にこそ読んでほしいです。

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メンタルヘルス

 

『HSPブームの功罪を問う』飯村周平

HSPブームの功罪を問う (岩波ブックレット)

一般的な人よりも敏感な人たちを指す、「High Sensitive Person」略してHSP。HSPという言葉で救われた人もいる一方で、発達障害の人への蔑視や、HSPを巡る怪しげなビジネスなど、よくない傾向も見られる。日本におけるHSP研究者である著者が、HSPの今と問題点を解説する。

氾濫するHSPビジネスへの警鐘が主なテーマになっています。エセ科学、怪しげなカウンセリング、カルト団体など、HSPを名乗る人を狙うビジネスは多いです。

「精神疾患について検索しているとよく広告で出てくるあの病院だろうなあ」とか、「毒にも薬にもならないアドバイスをするあのアカウントのことだろうなあ」と思い当たるところがたくさんあります。

正直精神疾患当事者といえど素人で、そういう怪しげなビジネスを論理的に批判しようとしても限界があります。こうしてプロの人がきちんと批判してくれるのはありがたいことです。

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『ギャンブル大国ニッポン』古川美穂

ギャンブル大国ニッポン (岩波ブックレット)

出口の見えない生活の中、パチンコにハマっていく東日本大震災の被災者たち。人は心が弱ったとき、依存症に陥りやすい。著者は日本のパチンコ政策への矛盾や、パチンコへ行くことの容易さの点を指摘する。ギャンブル依存症が多い国として、ギャンブルへの対策は必須のものである。

この本は、東日本大震災の被災者がギャンブル依存になってしまった話題から始まりました。ギャンブル依存と社会の関係について考えさせられます。

東日本大震災の被災者たちは、復興を目指しながらも強いストレスにさらされています。そこでストレス解消をしてくれるギャンブルにはまり、家庭を崩壊させる人すらいました。

日本中どこにでもあるパチンコ屋の存在が依存に拍車をかけます。仮設住宅の近くにもあったことに驚きました。

韓国にもメダルチギと呼ばれるパチンコに似たギャンブルがあったそうなのですが、法改正によって実質運営できなくなったようです。この辺り、日本の政策は遅れています。

また、「パチンコは違法である」ということを証明しようとする日本の弁護士もいて、パチンコ問題は重要な社会における重要なテーマなのだなと感じました。

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『「ややこしい子」とともに生きる』河原ノリエ

「ややこしい子」とともに生きる―特別支援教育を問う (岩波ブックレット)

じっとしていられない、読み書きや計算が極端にできない、友達付き合いがうまくいかない……。さまざまな問題を抱える発達障害の子どもたち。本人も周囲も、幸せになるにはどうすればいいのか。発達障害を持つ子を育てた著者が語る、「ややこしい子」の教育の未来の本。

発達障害の子どもたちはコミュニケーションが下手だったり、じっとしているのが苦手だったりして、周囲の子どもたちを怒らせることが多いです。

本人の生きづらさが周囲を振り回し、支援する側も疲弊してしまうのには悲しみを感じます。

また、著者は親や支援者が常に先回りをして支援していくのは、子どもが自立するには考えものだと語ります。

いつかは親はいなくなります。障害のない人と同じとはいかなくても、自ら助けを求めたり、配慮を求めたりしなければいけなくなります。

自分のことを自分でやることが目標の、障害のある子ども向けのキャンプの話は興味深かったです。

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『大災害と子どもの心 どう向き合い支えるか』富永良喜

大災害と子どもの心――どう向き合い支えるか (岩波ブックレット)

3.11を始めとする、災害は子どもの心に何をもたらしたのか。被災地に心のケア要員として向かった人々の視点で、トラウマや親しい人の死の受容について考える。傷ついた子どもたちの具体的なケアの内容とは。

トラウマのケアは、つらい過去を思い出さなくなるのが目標ではなく、ときに思い出して悲しくなっても、前向きに生をできることを目標にしています。

過去を悲しむ時間と、人生を楽しむ時間を分け、悲しみを抱えていても生きていける、という自信が人を強くするのでしょう。

トラウマを抱えた子どもたちのことを思うと胸が痛みますが、それでも生きていこうとする試みには、人の強さを感じます。

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『アルコールとうつ・自殺―「死のトライアングル」を防ぐために』松本俊彦

女性よりも圧倒的に高い男性の自殺率。それにはアルコール依存症、もしくは依存症とは言えないまでも無軌道な飲酒行為が関係していた。アルコールとうつ、そして自殺の関連性を紐解きながら、アルコールと適度に付き合う重要性について語る。そして、制度の方からできることとは……。

アルコール依存症が自殺率を高めるのはもちろんですが、依存症というほどでもなくても、うつ状態で深酒をして正常な判断を失った結果自殺したり、過剰な飲酒によって体を壊し、病気を理由に自殺したりすることもあります。

そして男性がアルコールに依存してしまうのは、社会に押し付けられた「男性は周りに相談してはならない、ひとりで我慢しなければならない」というジェンダー観も影響していると著者は言います。

深酒をする癖のある人こそ読んでほしい本でした。

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『ドメスティック・バイオレンス 新版―男性加害者の暴力克服の試み』草柳和之

ドメスティック・バイオレンス 新版―男性加害者の暴力克服の試み (岩波ブックレット)

ドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)はごく一部の人の不幸ではなく、社会でありふれた問題である。加害男性に暴力をやめさせるには、何ができるのだろうか。暴力を嗜癖のひとつとして、メンタルヘルスの視点で加害への依存をやめる方法を探る。

著者は加害男性の過去のトラウマや虐待経験に着目し、カウンセリングや他の男性との対話から認知の歪みを取っていくことを目指しています。

新鮮な意見だったのは、「加害男性の支援のゴールが離婚でも成功である」ということです。加害をやめた結果「もう夫婦ではいられない」と結論に達し、それ以上パートナーを傷つけないでいられるなら、それは支援に成功しているのだと。

確かに別離はつらいですが、「自分は相手を幸せにできないのだ」ということをきちんと受け入れ、建設的に別れを選べるのは救いではあります。

和解することが全てではなく、和解できないことを受容することも、精神的な成長なのでしょう。それもひとつの相手への愛情かもしれません。

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『「ひきこもり」から家族を考える 動き出すことに意味がある』田中俊英

「ひきこもり」から家族を考える―動き出すことに意味がある (岩波ブックレット NO. 739)

家から出られない、働けない人々、ひきこもり。ひきこもりの家族を支援し、ひきこもる人を社会に繋げるには何ができるか。具体的な対策とともに、子どものひきこもりによって孤立する家族について考える。

精神科医やカウンセラーは、過去のトラウマを探りがちなのですが、家族の側から見ればそれは必ずしも正解ではない、ということなのでしょう。

「ひきこもりになった理由を親に求めなくてもいい」と言うように、一旦理由や原因は横に置いて、できることから始めていくのが大事なのだと思います。

ひきこもりが就職した後、フリーターや非正規雇用になり、ワーキングプアとなってしまう問題にも触れていたのがよかったです。

周囲はひきこもりから脱出できてよかった、と思うかもしれません。しかし低賃金で働かされ、キャリアも積めない職にいることは当事者にとっては幸せとは限りません。

もちろん自立することは大事ですが、本人にとっては悩みはこれからも続く、ということを忘れてはならないでしょう。

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『自死は、向き合える 遺族を支える、社会で紡ぐ』杉山春

自死は,向き合える――遺族を支える,社会で防ぐ (岩波ブックレット)

生きる苦しみによって自ら命を断ってしまう人がいる。自死の悲しみは、当事者だけではなく家族も襲う。自死遺族たちが受けた差別や社会への疎外感、また対策について述べる。自死する人を減らし、自死遺族たちを支援するために、社会は何ができるのだろうか。

自死遺族たちが受けた差別やいわれのない噂については心が詰まりました。

「家族が自死に追い込んだのではないか」と疑われたり、自死について語ろうとしたときに相手にかたくなに拒否されたり、読むだけで悲しい気持ちになりました。

本の中で繰り返し語られているのは自死遺族同士のコミュニケーションや助け合いの重要性です。自死遺族を助けたいという人はいるももの、「助ける・助けられる」の関係自体を苦痛に思う遺族も多いです。自死遺族同士で、死んだ家族のことや自死についての偏見への愚痴を語り合うことで、対等な助け合いができます。

実際のところ私だって他人の自死について語り合おうと言われたら何を話していいのかわからず、失言する可能性はあると思います。自死遺族たちが自ら発信してくれるのは、何を言ってはいけないのかがわるからありがたいです。

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ジェンダー

男性の非暴力宣言 ホワイトリボン・キャンペーン (岩波ブックレット)

『男性の非暴力宣言 ホワイトリボン・キャンペーン』多賀太・伊藤公雄・安藤哲也

性的暴行、DV、セクハラなど、女性はさまざまな暴力にさらされている。しかしそれに異議を唱えるのは、同じ女性ばかりだった。ホワイトリボン・キャンペーンは男性が当事者として男性の暴力に反対し、女性や子どもへの暴力をなくそうと活動する取り組みである。

話題として面白かったのはオーストラリアのホワイトリボン・キャンペーンはあえて古典的な男らしさを利用して活動していることです。ホワイトリボンのマークをかっこよくごつごつしたデザインにしたり、大きなバイクで集まって女性への暴力反対を唱えたり。

それはちょっと不思議な光景ですが、古典的な男らしいデザイン、乗り物が好きだからと言って、女性へと暴力を振るうとは限りません。活動に興味を持ってもらうために、マッチョな表象を活用する逆転の発想は面白かったです。

少しではありますが、女性から男性への暴力や、同性パートナー間でのDVについても取り上げられています。暴力を受ける男性へ、今すぐシェルターを増やすというわけではなくても、相談を受けたときどう対処するのか考えておかなければならないとコラムでは説かれています。

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福祉

 

『闇の中に光を見いだす 貧困・自殺の現場から』清水康之・湯浅誠

闇の中に光を見いだす―貧困・自殺の現場から (岩波ブックレット NO. 780)

自殺対策に関わってきた清水康之と、貧困対策に関わってきた湯浅誠。政府の貧困政策のこれまでとこれからについて、対談形式で語り合う。政府内部から貧困・自殺の政策を打ち出そうとしてわかったことは、官僚や政治家たちの貧困への理解のなさだった。

著者ふたりは、反貧困の活動をする中で政府と関わることになります。政府中から社会を変えようとしますが、貧困に陥る人々への無理解に苦しみます。

活動家が政府と関わるとき、「政府と関わって牙を抜かれてしまった」ということを言う人はいますが、それだけでは語れないような事情があることがわかります。

地方分権の中で政府の中で改革をしようとしても自治体がついてきてくれないことも多々あります。

福祉の現場にいるはずの自治体職員に、貧困への理解がなく、当事者を傷つけたり排除しようとしてしまう。心が重くなる話でした。

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人権

 

『「感動ポルノ」と向き合う 障害者像にひそむ差別と排除』好井裕明

「感動ポルノ」と向き合う 障害者像にひそむ差別と排除 (岩波ブックレット)

巷にあふれる障害者をめぐる「感動」ストーリー。しかしそれは当事者の思いや多様性を反映しているとは言えないのではないか。様々な作品を取り上げつつ、フィクションやドキュメンタリーの中の障害者の表象を考えていくブックレット。

著者は過去に作られた障害者をテーマにしたフィクションやドキュメンタリーを題材に、障害者の表象について語っていきます。

その中でマジョリティが「障害のある人はこうあってほしい」と無意識に押し付けている願望には、嫌な気持ちになります。

とはいえそういう作品をなくすのではなく、反面教師として批評し、どういう表現が当事者の利益になるのか議論するのが大事だと思います。

作品に対する著者の意見には同意するところもありますし、できないところもあります。しかし明確な答えを得るよりも、障害者の表現が広くいろいろな人に議論されるのが大事だと私は思っています。

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『安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと』安藤泰至

安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと (岩波ブックレット)

欧米を中心に認められつつある「安楽死・尊厳死」。日本でも安楽死の合法化を主張する人が増えている。しかし安楽死を認めることで、適切な医療を受けて生活することや、延命治療をすることそのものが「悪いこと」のように見なされないか。患者を取り巻く社会の問題から、安楽死を問い直す。

「自分が死にたい」のはまだいいのですが、「(自分と似たような境遇の)他人が死んでもいい」と発言するのには問題があるのではないかと思います。

著者は「よい死」にこだわるあまり、「医療を受けながら生きようとすること」や「患者の周囲の人や医療従事者が終末期の患者を支えること」を軽視することになるのではないかと危惧しています。

また、終末期の患者の問題を医療が何でもかんでも解決する、負担の重さも指摘しています。終末期の患者には福祉や、地域や家族のサポートも必要でしょう。

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『隣人のあなた 「移民社会」日本でいま起きていること』安田菜津紀

隣人のあなた 「移民社会」日本でいま起きていること (岩波ブックレット 1071)

日本に逃れてきた難民、働きにやってきた技能実習生など、日本には様々な外国人や外国にルーツを持つ人々がいる。しかし一部の人たちは日本の法律やシステムのせいで、苦境に立たされている。困難に巻き込まれた日本に住む外国人たちを紹介し、日本社会の排他性を問い直す。

日本社会で困っている外国人の実例はきついものが多く、薄い本ながらも心が重くなりました。

特に読んでいてつらかったのは日本で孤独出産したベトナム人女性リンさんの話ですね。日本人女性もときどき産んだ赤ん坊を遺棄して罪に問われるのですが、そもそも産みたくても周囲の協力を得られない状況の方がおかしいです。女性に中絶を強制するのもどうかと思いますしね。

少子高齢化対策などと言っておいて、子どもを身ごもった女性に優しくない社会は矛盾しています。


世界中どこに行っても何かしらの差別はあるのでしょうし、私も外国の人を目の前にして偏見なく話せるかはわかりません。

ただ、人間は弱い生き物だからこそシステムや法律の側で差別を起こりにくくするのは大事だと思います。

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『強制不妊と優生保護法 "公益"に奪われたいのち』藤野豊

強制不妊と優生保護法――"公益“に奪われたいのち (岩波ブックレット)

障害者やハンセン病の人々に不妊手術を施した悪法、優生保護法。その法律はどのように作られ、どのような歴史をたどったのか。優生保護法の現在までを振り返りながら、優生主義の恐ろしさ、愚かさを伝える本。

優生保護法の影響を受けたのは、知的・精神障害の人、ハンセン病の人、水俣病の人など多岐に渡ります。特に水俣病と優生保護法に関係があるとは知らなかったので、その部分は興味深く読みました。公害でひどい目に遭った上に子どもを生むことにまで干渉されるのは最悪ですね。

 

印象的だったのは、優生保護法に協力した多くの医療従事者がいたことです。感染症であり、感染力も強くないハンセン病の人々も結婚するとき不妊手術を強いられました。またハンセン病の女性が妊娠した胎児を何度も解剖するなど、科学者が協力しないとなし得ない行為も多かったのです。

こういう文章を読むとTwitterで科学者が「科学者は真実を知っているんだ」という態度を取っているのも何だか疑わしく思えてきます。だからって反科学の主張をしたいわけではなくて、科学者だって人の子なのだからその場の状況に流されることはありうるという話です。

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『相模原事件とヘイトクライム』保坂展人

相模原事件とヘイトクライム (岩波ブックレット)

障害者施設で19人が殺害された相模原障害者施設殺傷事件。その事件は多くの障害者とその家族、支援者らに衝撃を与えた。著者は障害のある人の意見を聞いたり、過去の優生思想が起こした事件を語ったりして、優生思想の罠に囚われないよう警鐘を鳴らす。

相模原事件の容疑者の書いた文章から、被害者の家族の思い、障害を持って暮らす人々の反応、そして過去の優生思想が起こした事件について書かれています。

後半はナチスが起こした障害者を抹殺する計画について書かれています。短いダイジェストの内容ながら恐ろしい情報でした。

ユダヤ人を殲滅する計画の「練習」として障害者の大量殺害が計画されたこと、そしてその計画に嫌々ではなく積極的に参加していた医者がいたこと、計画が中止になったあとも医療従事者が個人で障害者を「処分」していたこと。

人は明らかに間違った倫理の中にいても、それが当たり前になると順応してしまうのかもしれません。読んでいてひどく嫌な気持ちになりました。

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『誰のための排除アート? 不寛容と自己責任論』五十嵐太郎

誰のための排除アート? 不寛容と自己責任論 (岩波ブックレット)

ベンチに寝そべられなくする、開いている土地にホームレスが段ボールハウスを作れなくする、若者がたまらないようオブジェを置くなど、「邪魔者」を排除する排除アート。それらはどのように設置され、社会にどのような影響を与えているのか。町にある排除アートから、現代の不寛容を見る本。

世の中のベンチがだんだんそういう形になってきているのは知っていましたが、「排除アート」という言葉や概念に対して、多くの芸術家たちが怒りを覚えていることに驚きました。でも考えてみると、当然かもしれません。

芸術家の人たちの中には、芸術を通して弱い人の存在を取り上げたいという人もいるだろうし、そういう人にとって「排除のオブジェ」にアートの名がつくのは耐えられないことでしょう。

私も大阪という土地柄、ホームレスの人をよく見かけているんですけれど、彼らはあるときふっといなくなるときがあります。ホームレスの人が特別好きというわけではないですが、ちょっと心配になります。死んだのではなく、福祉施設でゆっくり過ごしていてくれるといいんですが。

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社会

 

ファクトチェックとは何か (岩波ブックレット)

フェイクニュースが話題になる昨今、ニュースや政治家の発言の真偽をチェックする「ファクトチェック」が注目されている。人々が正しい情報にアクセスするには、過去の発言や出典をチェックするファクトチェッカーの存在が必要である。海外の事例も紹介し、日本のこれからのファクトチェックについて語る本。

ファクトチェックの難しい点は、自分の政治思想とは関係なく、「正しさ」を判定しなくてはならないことです。ときには自分の嫌いな人間が、本当のことを言っていると認めなければならないときもあります。

ファクトチェックと自分の意見を言うことは、全く異なること。ときには自分の意見を否定してでも真実を探さなければならないということに重みを感じました。

後半には海外のファクトチェック事情が書かれています。アフリカや中南米など、政情が不安定な国でもファクトチェックの組織がつくられているのには驚きました。でもよく考えれば、政情が不安定だからこそ必要な面はあるのかもしれません。

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『高齢ドライバー 加害者にならない・しないために』毎日新聞生活報道センター

高齢ドライバー―加害者にならない・しないために (岩波ブックレット NO. 716)

近年、高齢ドライバーの事故が多発している。お年寄りを事故の加害者にしないために、何ができるだろうか。人々が家族の中ののお年寄りに免許返納をお願いした実例から、行政側からできる努力についてなど、高齢ドライバー問題を考える一冊。

高齢ドライバーは車の運転自体を生きがいにしている人が多く、免許返納をきっかけに認知症になってしまう人もいます。
絵やパズルなどの車以外の趣味を見つけて落ち着いて暮らしている人もいれば、そのまま徘徊を繰り返すようになる人もいます。
免許返納以前に、車以外の楽しみを見つけることも大事なようです。
 
また、免許返納が難しいのは、郊外~農村部が車移動ありきで発展してきたという理由もあります。車がなければ移動が難しい町で、車に乗らないのは難しいです。
車移動ありきの社会を見直し、公共交通機関で町のめぼしい施設を回れるようにする取り組みもなされています。
高齢ドライバーの問題は、認知症の問題やまちづくりの問題にかかわっていることがわかった本でした。

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科学

 

『プラスチック汚染とは何か』枝廣淳子

プラスチック汚染とは何か (岩波ブックレット)

細かく砕けたマイクロプラスチックが海を漂い、動物の体内に入って悪影響を与える……。しかし、海を漂うプラスチックの脅威はそれだけではなかった。プラスチックの成り立ちから、プラスチックが引き起こす諸問題、それを受けた各国の対策などを書いたブックレット。

改めてプラスチック汚染についてまとまった文章を読んでみて、どれだけ「なんとなくてプラスチック汚染を語っている」Twitterユーザーのいいかげんさを感じてしまいました。まあ自分もこの本を読むまでそうだったのでブーメランではありますが。

プラスチック汚染というとマイクロプラスチックが魚や海の生き物の中に入り悪影響を与える可能性が、ということばかり語られがちです。しかし化学繊維の網や釣り具が海をさまよい船のスクリューに絡まって破損させたり、観光地のビーチで大量にプラスチックごみが流れ込んで億単位の損害が出たり、「いつかの未来」ではなく「たった今」被害が出ていることは知らなかったです。

というか動物の尊厳に興味がない人はいっぱいいるんだから、ちゃんと「人間への被害」も説明すればいいのに。意見を通すには相手によってテーマを変えるのって大事ですよね……。

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『培養肉とは何か?』竹内昌治・日比野愛子

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

畜産による環境汚染や、動物福祉の問題から注目され始めた培養肉。日本国内で培養肉の研究を行っている著者が、研究の進捗状況とこれからの課題、さらには培養肉を研究するメリットを語る。「動物を殺さない肉」が描き出す、未来の社会とは……。

著者が実際に培養肉を研究している側なだけあって、具体的な話が知れて面白かったです。たとえば培養肉の研究と言ってもさまざまなものがあって、ミンチ型かステーキ型か、あるいは植物由来の物質を混ぜるかどうかなど、方向性に違いがあります。

そして培養肉を研究する上での困難も書かれています。そもそも培養肉の存在を前提とする法律がなかったので「食品」としてどう扱うか決まっていなかったり、肉を培養する上で安全が保障できる材料を調達するのが難しかったり。この辺りは私みたいな一般人が想像することのできない事情なのでとても新鮮でした。

私はビーガンでもエコロジストでもないですが、将来人類が畜産を続けられなくなる可能性はあると思っています。鳥インフルエンザの流行もその可能性のひとつでしょう。畜産を続けられなくなった瞬間から「肉の代用品を作ろう!」という研究を始めるのは遅すぎます。という意味で、今肉の代用品について研究するのは理にかなっていると思います。

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以上です。興味があったら読んでみてください。