ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

『キレる私をやめたい~夫をグーで殴る妻をやめるまで~』田房永子 バンブーコミックス エッセイセレクション 感想

キレる私をやめたい ~夫をグーで殴る妻をやめるまで~ (バンブーコミックス エッセイセレクション)

 

あらすじ・概要

夫にキレる衝動を抑えられない著者。ちょっとしたことで怒鳴り散らしてしまい、自己嫌悪に陥る日々だ。これではいけないとキレない方法を試しても、上手くいかない。そんな中、ゲシュタルトセラピーというものに出会い、著者の価値観は変わっていく。

 

良い人ってわけではないけどこういう漫画も必要

コミックエッセイの問題作としてよく名前が上がるので、一度読んでみなければと思っていました。読んでみると思ったよりもまともでちゃんとした内容でした。

 

著者は普段は内気すぎるぐらいなのに、恋人や夫など距離感の近い相手にはキレてしまいます。言葉だけならまだしも、暴力が出てしまうことも。著者は何度もそんな自分に自己嫌悪を起こし、キレるのをやめたいと望みます。

しかし、暴力的な家族に悩まされる人々の話はあっても、自分が「暴力的な家族」になってしまった場合どうすればいいのか情報がありません。著者はそこで行き詰ることになります。

著者は、ゲシュタルトセラピーに参加したことをきっかけに、自分の内面にある感情に気づきます。そこから、怒りをコントロールできるようになっていきます。

 

怒らなくなったことで、「キレる私に付き合ってくれる聖人君子のような夫」が実は欠点もだめなところもある、普通の男性であることに気づくのも面白かったです。

よい、悪いという二択ではなく、人間はあいまいで灰色な存在なのだと受け入れ、そこから極端にキレなくなっていく著者が印象的でした。

 

正直著者のような人が家族にいたら困ると思います。夫も、著者に理不尽にキレられて許せないこともあるかもしれません。しかし、DVをする人としない人に、明確な境界線はありません。この漫画を読むことによって、誰かがDVを思いとどまることができれば描く価値はあったでしょう。

 

とはいえあまりにもせきららな内容過ぎるので、このコミックエッセイを描いたことについて、家族の方がどう思っているのか気になります。許容しているのであればすごいです。

 

 

 

 

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『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』竜田一人 モーニングコミックス 感想

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1) いちえふ 福島第一原子力発電所労働記 (モーニングコミックス)

 

あらすじ・概要

福島第一原子力発電所での廃炉作業に興味を持った著者は、原発の作業員として働き始める。過酷な原発における労働と、作業員同士の友情、放射能をめぐるあれこれ。廃炉作業の最前線を描き出す。

 

 

原子力発電所の廃炉作業に行ってみたらすごかった

分厚い防護服を身にまとい、熱中症の危険と戦いながら、廃炉作業に従事する人々。リアルでひりつくような状況に、心を奪われます。

廃炉作業と聞いても、具体的にどういうことをしているのか想像がつかない人がほとんどだと思います。壊すためにさらなる工事をするという不思議な状況に、他の建築物とは違うものを感じました。

被ばくを防ぐため何重にも服を着こむため、漫画の中でも繰り返し着替えのシーンが描かれます。いかにも面倒くさいので大変そうです。しかし被ばくしないためのルールなので律儀にやっています。

 

原発作業ではなくても、こういう肉体労働をやっている人は、情報発信が少ないです。建設現場独特の文化や、やり取りが面白かったです。

ブルーカラーの人々の持つ、力あふれる雰囲気と猥雑さ、生々しいながらポジティブな語りが興味深かったです。

終盤では原子力発電所の廃炉作業に使われているロボットについても触れられています。過酷な廃炉作業においてどこかユーモラスなロボットが良かったですね

 

しかし、作業員が偶然こんな漫画が上手いことありうるのだろうか? と思っていたら、もともとコンビニコミックで実話系のマンガを描いていた人のようです。そんな人が原発の廃炉作業に興味を持ち、行ってみた、と。順序が逆なわけですね。

 

一方で、腹立つな……という言い回しがところどころにあります。意図的にけんかを売りたいのでなければ、もう少し話し方について考えた方がいいと思います。

違う価値観の人はなめてかかってもよい、と思っているような態度が鼻につきました

 

 

 

 

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『あの日からのマンガ』しりあがり寿 ビームコミックス 感想

あの日からのマンガ (ビームコミックス)

 

あらすじ・概要

しりあがり寿が見た震災とは……。朝日新聞に掲載された震災発生前後の四コマと、震災にまつわる漫画を収録。放射能や原発事故を比喩で表すなど、「震災後」を意識した作品集。

 

震災を受けて考え方を変えざるを得なかったあのころを思い出す

『地球防衛家のヒトビト』は親が朝日新聞を取っていたので、ちょくちょく読んでいた思い出があります。

もっともこの時期は東京で一人で暮らしていたので、四コマは読んでいませんでしたが。

 

物語として面白いというよりも、東日本大震災を受けて、否応なく価値観を変えなければならなかった当時の世界を思い出します。

安全神話が崩れ、エネルギー政策について何を信じればいいのかわからなくなりました。

もちろん当時の感覚は、今、原発事故を見ている私たちとは異なります。科学的にはどうあれ当時の気持ちも嘘偽りのないものであることには変わりないです。

原発についての暗喩的な漫画は、いまいち何を描いているかわからないものも多いです。しかし、そういう時代だったんだなあと言う空気感はわかります。

 

著者はボランティアに参加しており、その経験を四コマに描いています。

ボランティアに行ったはずなのに、現地の人に助けられ、丁寧にお礼を言われる。嬉しいような切ないような気持ちになりました。

今回の能登半島地震でも、こんな風にボランティアが参加しているのでしょうか。

 

 

 

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『ふくしまノート』井上きみどり バンブーコミックス 全3巻 すぐパラセレクション 感想

ふくしまノート1 (バンブーコミックス すくパラセレクション)

 

 

あらすじ・概要

著者が福島に暮らす人たちにインタビューを行い、東日本大震災後の福島の姿を描く。農業や漁業のこと、子育てのことなど、放射能に振り回される福島の人たち。原発事故は、確かに日常を変化させてしまった。

 

東日本大震災後の福島県の人たちの葛藤と希望

自分がどれだけ福島県について知らないか重い知らされる漫画でした。こういう人々のリアルな感情は、知ろうとしなければたどり着けないのだと思います。

 

登場する福島の人々の思いはさまざまです。もう福島は安全だと思う人、放射能の被害を恐れて県外に逃れた人。

福島を出た人ですら、かつての故郷のことを考えて葛藤し、罪悪感を覚えています。

 

また、『ふくしまノート』は数年単位で描かれたシリーズです。それゆえに連載中に福島の人たちの価値観が変わっています。放射能が怖い、よくわからないという状態から、次第に放射能のことは話してはいけない雰囲気になっているようです。

もちろんデマはよくないですが、放射能のことが禁句になってしまうのはもっと恐ろしいです。自由な議論が許されて初めて知識は価値が出てくるのだと思います。放射能の研究にも影響が出てしまいそうです。

 

未来へ希望を持ちたいという気持ち、それでも存在する絶望や痛み、ふたつの心で揺れ動く被災者たちの物語でした。

 

あまりにせきららな感情を描いているので、引いてしまう部分もあります。会津の人の震災への思いや、子どもを持つことへの価値観もそうです。

しかし、こういう形での本でしか「そう考えてしまう人もいる」と思えなかっただろうので、あまり悪くは言えないです。

 

 

 

 

 

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『虐待父がようやく死んだ』あらいぴろよ バンブーコミックスエッセイセレクション 感想

虐待父がようやく死んだ (バンブーコミックス エッセイセレクション)

 

あらすじ・概要

暴力、暴言など、虐待家庭で育った著者。いつも殴られている母親のことを心配し、気にかけていた。大人になっても、虐待の記憶はよみがえり著者を苦しめる。やがて、著者は母親の歪みに気づくのだった。

 

虐待について話し合える人がいるのは幸運だ

以前の漫画の内容とかぶるところもありましたが、面白かったです。家族の問題の複雑さを感じました。

 

著者は父親から性加害未遂に遭っています。たとえ未遂であっても、子どもの心に深い傷を残すのだなあと感じました。

父親が自分に性加害をしようとしていると気づいた著者は、頭を丸刈りにしたり、いつでも逃げられるように靴を履いたまま寝るようになります。未成年の子がこんなにおびえて暮らさなければならなかったのです。心が痛みました。

 

著者が実の両親に結婚のあいさつに言ったとき、著者の夫に異様に外面のいい対応をするのが怖かったです。やろうと思えば、他人に優しい振るまいができるのです。でも、家族にはやりません。周囲の人はつらかったと思います。

 

不幸中の幸いと他人が言うのも失礼かもしれませんが、著者は兄弟仲が悪くなかったのが救いです。親の理不尽さを語り合い、時に協力する相手がいることはよかったと思います。もちろん兄弟たちも「親に学費を出してもらったから逆らえない」と思う等親に縛られています。そこにやるせなさを感じました。

 

 

 

 

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『半ダース介護』井上きみどり 集英社 感想

半ダース介護 6人のおジジとおババお世話日記

 

あらすじ・概要

主婦として生活している女性は、夫側の家庭の複雑さゆえに、一気に6人もの老人の介護を一気にすることになる。自由奔放な彼らに振り回されながらも、必死に日々の世話を続ける。しかし、徐々に体の限界を感じるようになる。

 

早く福祉に頼ってほしいが人間について考えてしまう面白さ

結論から言うと「こうなる前に福祉に頼ってほしい」としか言いようがないですが、それでも面白かったです。

周囲の人間ももっと主人公が抱え込んでいることを気にしたほうがいいです。どう考えても過労になりますよ、これは。

とはいえ、「介護は嫁の仕事」という思い込みがあるのは社会の責任でもあります。だから「この漫画がだけがおかしい」とは言えません。

 

作中で詳細は語られていませんが、著者の夫に実の両親と育ての両親がいるため、著者は義理の両親が二組いることになっています。

しかし、そういう複雑な家庭が存在すると想定していないところは、システムの問題です。実際のところ、ややこしい家庭に育った人はそれなりの割合います。そういう人が親世代が介護の必要な状況になったとき、手助けする方法を考えておくことは大事です。

 

人間と人間の関係としてはろくでもないなと思いますが、家族との情は理屈では割りきれないところがあります。主人公が入院したときに、ジジババたちからかけられた声に考えさせられました。

さくっと縁を切ることができるならこれほど悩まないでしょう。

家族が無理せず高齢者と付き合えるように、社会の方が支えなければいけないと思いました。

 

 

 

 

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『凹凸あるかな?わたし、発達障害と生きてきました』細川貂々 平凡社 感想

凸凹あるかな? わたし、発達障害と生きてきました

 

あらすじ・概要

大人になってから発達障害に気づいた著者。彼女は自身の人生を振り返る。空気をうまく読めなかったこと、人の意見を真に受けすぎていたこと……著者の近くの発達障害の人々も紹介し、発達障害の人々の悩みを考える。

 

相手が言葉を真に受けるからってからかってやるなよ

 

成長の段階に沿って、著者の過去が語られます。

4コマなのでボリュームが多く、たくさんエピソードが読めるのもよかったです。

淡々としつつ、善悪織り混ぜた内容でしたが、著者らしい作風でよかったです。メッセージが明確な話より、こういう内容の方が著者に合っていると思いました。

 

著者の周りの発達障害の人々についても語られます。

伴侶に発達障害の診断を受けてほしいと頼まれた人、牧場で働く人、家族に発達障害がいる人。

それぞれの事情、それぞれの感情があって面白かったです。

 

読んでいると、素直すぎる人は人に騙されやすいと感じます。

著者が善人かというとそうではありません。しかし空気が読めないことを理由にからかったり、だましたりするのはよくないです。

周囲の理解がどうというより、隙あらば人をからかおうとしてくる人はだめですね。

私自身のことも思い出して、恥ずかしいような苦しいような気持ちになりました。

 

ただ私は、「発達障害は病気ではない」という言葉には否定的です。本人が困っていて、医療行為によってその困り事が解決する可能性があれば、やってみた方がいいと思うからです。

もちろん医学は万能ではありませんが、「個性だから大事にしよう」という態度が本人を苦しめる可能性もあります。

 

 

 

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『アメリカ横断 我ら夫婦ふたり旅』山本あり 産業編集センター 感想

アメリカ横断 我ら夫婦ふたり旅

 

あらすじ・概要

著者は夫とともに、アメリカ横断の旅に出る。アメリカでレンタカーを借り、陸路で西海岸から東海岸を目指す。そこで出会ったアメリカのグルメや観光地。アメリカ大陸の豊かな自然に感動する。

 

アメリカ横断エッセイは珍しいので面白かった

アメリカ横断のコミックエッセイは初めて見たので、新鮮で面白かったです。

しかもレンタカーを借りて車で移動するというもの。個性的という点では突出しています。

 

日本は山がちな地形です。アメリカの広い大地を車で移動するというのは日本ではできない体験でしょう。こういう旅ができるのはうらやましいですね。

長時間運転するので、疲れを前提とした工程を組むところも面白かったです。

ラスベガスに寄ったり、ディズニーリゾートに寄ったり、アメリからしい観光地が見られました。

 

登場するアメリカの食事もおいしそうでした。

私も甘じょっぱい系の食べ物が好きなので著者とは話が合いそうです。

ただ、恐ろしくカロリーが高いものばかりです。作中のふたりも肥満のことを気にしながら旅をしていました。旅で節制するのは無粋とはいえ、14日もあると健康への不安がありますね。

アメリカだと生野菜を食べられないということも興味深かったです。野菜好きは長期旅行になるとつらいですね。

食べたいと思いつつ、私はサイズ的に食べられないかもしれません。(日本ほど食べ物を残す忌避感がないらしいですが)

 

 

 

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『おいしいロシア』シベリカ子 イースト・プレス 感想

おいしいロシア (コミックエッセイの森)

 

あらすじ・概要

ロシア人男性と結婚した著者は、一年間ロシアで暮らすこととなる。そこで食べたロシアの料理を漫画に描いた。肉、魚、乳製品など、ロシアの料理と共に、ロシア独自の文化も紹介。「おかわり」では日本に帰国したあとのふたりが描かれる。

 

ロシアの食文化と独自の風習が面白い

 

最近ロシアについてつらい話題しか流れて来ません。たまにはポジティブな話題を聞きたいと思って手に取りました。ロシアの文化を食べ物を通して知るコミックエッセイで面白かったです。

絵柄がかわいらしく、読みやすかったです。

 

ダーチャ(ロシアの別荘)や年中行事、季節の食べ物についても描かれていたのが面白かったです。その土地の独自の文化や食べ物は好きです。

肉や乳製品だけではなく、魚の料理や発酵食品が紹介されているのも面白かったです。発酵食品は腐らせたときが怖いので、自分では作る勇気がないです。しかし他人が作っているのを眺めるのは楽しいです。

「~じゃない?」という、著者の夫の独特の話し方がほっこりします。

 

 

しかし、ロシアとウクライナの戦争が始まってからは意味合いが変わってしまいそうな部分もあります。

続刊である「おかわり」にはジョージア(旧グルジア)の話題が出てきます。ジョージアはロシアと距離を起きコーカサスの国としてのアイデンティティを強めようとしています。最近ジョージアの駐日大使がよくバズっていますね。面白い人だけど彼もジョージアの国益のために活動していることを忘れない方がいいと思います。

このあたりは今書こうとすると雰囲気や解釈が変わってしまうでしょう。

やはり戦争があると楽しい話も楽しいだけでは済まなくなります。何かをのんびり語るということも平和な国だからできるのかもしれません。

 

 

 

 

 

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『身近な危険から自分を守る! ゆるサバイバル入門』ふじいまさこ 新潮社 感想

身近な危険から自分を守る! ゆるサバイバル入門

 

あらすじ・概要

自然災害、犯罪、性加害、パワハラ、セクハラなど、人生で巻き込まれる可能性があるトラブルを女性の視点から解説。漫画を通して、対策や起こってしまったあとの対処を紹介する。身近な危険から身を守るための学習漫画。

 

女性が身を守る方法を漫画形式で教えてくれる

ゆるサバイバルと言いながら内容はかなり真面目な本でした。タイトルで損をしています。

エッセイ漫画というより大人向けの学習漫画という雰囲気です。女性が人生で巻き込まれるトラブルに関して自衛対策や巻き込まれてしまった後の対応について語られています。

 

最近問題になっている、性加害についてもかなりのページで語られています。性加害の自衛から、実際に被害に遭ったらどう行動すべきか、裁判のことなど一通りの流れが描かれています。

自衛方法は紹介しますが、あくまで被害者ではなく加害者に責任があるという立場が明確でよかったです。

本当はこういう漫画がシェアされ、拡散されるべきなのだろうに、センセーショナルな部分だけが切り取られて報道されていることに怒りを覚えます。

 

防犯や性加害の問題は深刻になりがちですが、漫画と言う媒体を使うことでつらい話も受け入れやすくなります。メディアを利用した。いい書籍でした。

 

 

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