ブックワームのひとりごと

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ハロウィンに読みたい!人外キャラが魅力的な小説34選

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たまには季節ものの記事を書こうということで、今回はハロウィン人外小説特集です。

普段からライトノベルを読んでいるため圧倒的にライトノベルが多くなってしまいました。

 

 

ファンタジー

 

『おちこぼれ退魔師の処方箋』田井ノエル

おちこぼれ退魔師の処方箋 ~常夜ノ國の薬師~ (マイナビ出版ファン文庫)

退魔師の家系に生まれた咲楽。しかし彼女には退魔の力はなく、魔者を癒す力があった。癒しの力の代償に体に穢れを貯め込んだ咲楽は、常夜で暮らす魔者鴉に拾われる。薬師である彼は咲楽を「商品」として店に置いた。ふたりの奇妙な共同生活が幕を開ける。

咲楽を拾ってくれた鴉は、人間社会とは違う価値観を持っています。家族という概念が乏しかったり、倫理観がずれていたり。

しかし家族に疎まれ、周囲に虐げられ、傷ついてきた咲楽にとっては自分を受け入れてくれる鴉の存在がありがたかったのでしょう。咲楽は魔者たちとの交流によって自分を取り戻し、やりたいこともできました。

現実にはこんな交流はありえないでしょうが、ファンタジーだからこそ、人でないものたちを描いたからこそ持てるつながりは面白かったです。

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『となりの魔王』雪ノ下ナチ

となりの魔王 到来編 (ビーズログ文庫アリス)

田舎の田園地帯に暮らす夏織(かおり)の家の隣に、魔王が引っ越してきた。ファンタジー世界から抜け出たような彼に夏織は戸惑うが、地域の住民はあっさり受け入れているようで……。夏織は、ご近所さんとして魔王と付き合い、その一般人とは違う思考回路に振り回される。

あらすじ自体は本当に何気ないもので、洗濯機の使い方を教えたり、流しそうめんをやったり、花火をやったり、とりたてて大きな伏線もなければどんでん返しもありません。そういう何気ない話をここまで面白く愉快に書けるのがすごいです。

やたらと古風で中二病なしゃべり方なのに案外お人好しで、子どもっぽいところもある魔王と、普通の女子高生だがツッコミ力が高くモノローグの面白さが群を抜いている夏織の、恋愛要素のない交流は本当によかったです。

お互いに好意や情はあるものの、恋愛フラグが立たない関係っていいよね。

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『地獄くらやみ花もなき』路生よる

地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

宿を失くしネットカフェを泊まり歩いていた遠野青児は、罪を犯した人間が妖怪の姿で見えてしまうという力があった。彼は不思議な館に迷い込む。そこにいたのは不思議な少年、西條皓(さいじょう・しろし)。彼は鬼の代わりに罪人を地獄へ送り込む仕事をしていた。青児は、住み込みで皓の元で働くことになった。

人の姿をしているけれど人間ではないショタと、平凡でありながらどこか世間とずれている主人公の怪奇系ミステリです。

皓と青児の飼い主とペットのような関係が面白いですね。ヤバい館だと思っているのにおいしい食事や衣食住につられて環境になじんでしまう青児と、そんな青児を面白がって傍に置こうとする皓。倫理的とは言えない関係性ですが、世界観とも相まって楽しくなってきます。

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『人形姫と身代わり王子』みどうちん

人形姫と身代わり王子 (ルルル文庫)

生まれたときから魔界の王子と結婚することを運命づけられていた撫子は、将来の婿、ヴァリーに会えるのを心待ちにしていた。魔界の王子との結婚は生贄のようなものだが、撫子は手紙でヴァリーに恋をしていたのだ。しかしやってきた魔界からの婿は、替え玉だった……。

ヒロインがお嬢様口調、猪突猛進の恋する女の子という尖った設定。しかしこのヒロインがかわいいんですよね。育ちがよくて世間知らずだけどいい子だし、案外周りを見ているところもあるし。

ヒーローも偽悪的なところはありますが、魔界と人間界を思って行動できるいいやつで、ヒロインのために体を張る一面も。ふたりとも癖はあるけどほほえましく、お似合いのカップルです。

トラブルがありつつも少しずつ心を通わせていくふたりがかわいい話でした。

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『シスター・ブラックシープ 悪魔とロザリオ』喜多みどり

シスター・ブラックシープ 悪魔とロザリオ (角川ビーンズ文庫)

赤ん坊のころから将来悪魔の花嫁となることを運命づけられたコンスタンティン(コンスタンス)は、男として育てられ教会の助祭として暮らしていた。しかしやはり悪魔は現れ、結婚指輪をつけられてしまう。その指輪を外すには、善行を積むしかないようで……。

コンスタンティンの押しかけ夫である悪魔が、ただ一方的に惚れてくるというより、「倫理のなさ」の結果として言い寄ってくるところがよかったです。倫理のない人外大好き。

悪魔なので、コンスタンティンは死なない方がいいとは思っていますが、それはそれとして「黒い羊」としての慈善活動を成功させようとは思っていないし、悪いことが起こっていてもまあいいかと感じている。そのコンスタンティンとの温度差が怖くてよかったです。

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『ブレイブストーリー』宮部みゆき

ブレイブ・ストーリー 【上中下 合本版】 (角川文庫)

ゲーム好きの小学生の亘は、両親と平穏に暮らしていた。ある日、亘のクラスに芦川という転校生がやってくる。芦川に話しかけようとする亘だったが、冷たくあしらわれてしまった。そんな折、亘の父親が家を出て行ってしまう。彼は亘の母と離婚し、新しい家庭を作ろうとしていた。亘は家庭が元通りになることを求めて、もうひとつの世界へ向かう。

獣人、トカゲ人、小人など、多様な姿をした人々が住んでいる社会が舞台です。種族ごとに文化や得意分野が存在します。

異世界である「幻界」がワタルの心を映している以上、この多様性もワタルの心の一部なのでしょう。最後にワタルが選んだ選択も心に響きました。

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『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』ロケット商会

勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録 (電撃の新文芸)

勇者となることが刑罰として扱われている世界。懲罰勇者のザイロは、なりゆきで魔王討伐の武器である「女神」と契約してしまう。ザイロたち懲罰勇者は、絶望的な作戦を任される。

「人間を支える倫理のある人造の人外」「普通に人間をゴミだと思っている人外」「人外なのに自分以外の人外を倒す人外」とよりどりみどりな内容です。

人間サイドもろくでもないやつばかりながら、その中でわずかな勝利をつかむカタルシスが楽しい作品です。

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『哀しみキメラ』来楽零

哀しみキメラ (電撃文庫)

塾のエレベーターで「モノ」に襲われ、その「モノ」と融合してしまった純たち四人の若者。強化された体、食べても治らない空腹。生きていくためには「モノ」を食らっていかなければならない。純たちは共同生活を送りながら、「モノ」を退治する生活をする。

主人公の純、元医学部志望で物静かな水藤、生き残ることに貪欲な十文字、紅一点で明るい彩佳。四人はモノを食らって変わっていく自らの体に戸惑いながら、生き残るために、人間らしい生活をするために尽力します。

自分が徐々に人間ではない者に変わり果てていく恐怖と、同じ境遇の人間と助け合って生きていこうという悲哀がせつない作品です。

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『狐格子~ためたね流御師 真坂野ゆり~』成沢唱

それいゆ文庫 狐格子 ~ためたね流御師 真坂野ゆり~

自分の失敗で異動させられることになった公務員、緒方太一は、「くらし文化特殊支援室」という謎の部署にやってきた。そこは警察では扱えない、怪異事件を解決する部署だった。主任分析官の真坂野ゆりとともに、太一は狐の面をかぶった謎の人物を追うことになる。

主人公は一見明るい好青年だが根は憶病で都合のいい性格で、善人とは言いがたいです。そんな問題のあるキャラクターでありながら、面白く読ませるところが新鮮でした。むしろ探偵役にしてヒロイン、真坂野ゆりのほうが倫理観はまともでしたね。

心霊ものなのですが、超常現象にもどこか優しいゆりの態度が良かったです。恐ろしいけれど切ない霊能探偵ホラーでした。

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『天帝妖狐』乙一

天帝妖狐 (集英社文庫)

杏子は道端で倒れていた夜木という男を拾う。顔を隠した夜木は、何か訳ありのようだが……。表題作と、トイレの落書きをテーマにしたサスペンス「A MASKED BALL」の二編を収録。

こっくりさんの「早苗」と契約した夜木は、死なない体を手に入れる代わりに、怪我をするたびに人間の体を失っていきます。その恐怖と孤独が美しい筆致で描かれています。

そして行き倒れた彼に手を差し伸べた杏子も、孤独を抱えていました。友達との交流の中で浮いてしまい、いつも戸惑うように暮らしています。そんな彼女だからこそ、夜木がひとりきりでいるのが苦しかったのだと思います。

人でないものに変化しつつあるキャラクターが人の愛でこの世につなぎとめられる、そんな物語に心打たれました。

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『狐笛のかなた』上橋菜穂子

狐笛のかなた(新潮文庫)

産婆に育てられた少女、小夜は、犬に追われている狐を助ける。それは、となりの国で使い魔として飼われている霊狐だった。時がたち、小夜が母親の正体を知ったとき、運命が回り始める。同じころ、小夜が出会った男の子が危険にさらされ……。

かなりシリアスな話なので、読むのに時間がかかりました。そして登場人物が多いのも大変です(しかもみんな話にかかわってくるから読み飛ばすこともできないという)

物語の根幹になっているのが「呪い」で、作中では呪いでかなりの登場人物が死亡しています。しかし呪っているほうが幸せに暮らしているかというとまったくそんなことはなくて、とても闇が深いです。

そんな中小夜と霊狐の野火が仲良くしてると少し心が和みましたね。小夜と野火が選び取った結末もよかったです。少し寂しいですが、あの二人にはあれが幸せだったんでしょうね……。エピローグの情景がとても美しいです。

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『空色勾玉』荻原規子

空色勾玉 「勾玉」シリーズ (徳間文庫)

羽柴の村の少女狭也は、輝の大御神の子である半神、月代王(つきしろのおおきみ)に見初められ、采女として都に上がる。だが彼女は、闇の眷属だった。狭也は神殿に戒められた少年、稚羽矢と出会う……。

何度も生まれ変わって地上に現れる闇の氏族と、不死の体を持つ照日王、月代王、のふたりの御子。それが長い長い時の間争いを続け、多くの人々が死んでいく。そんな世界に狭也は「水の乙女」として生まれます。

そんな過酷な状況の中から、不思議な少年と出会うガールミーツボーイ。閉じ込められて世界を知らない稚羽矢は、狭也と触れ合っていろいろな感情を培っていきます。その姿にほっこりする一方で、闇の氏族をめぐる状況はどんどん悪くなっていきます。これからどうなるの! と心配しながら読み進めていました。

神様が今より身近だった神話の世界。人とは違う倫理観で生きるキャラクターが恐ろしい一方、救いも感じる作品でした。

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『バーティミアス』ジョナサン・ストラウド

バーティミアス サマルカンドの秘宝 上 1

魔術師の弟子ナサニエルは、今をときめく魔術師ラブレースに侮辱されたことをきっかけに復讐を企てる。呼び出されたのはジン、バーティミアス。バーティミアスはいやいやながらも生意気な少年の復讐に付き合うことになるが……。

訳あって人間に思い入れがある妖霊と、生意気な魔法使いの子どもとのバディもの。

長いですが一気に読める面白さです。

そしてこのシリーズの特徴的な部分が、バーティミアスの視点のとき語られる注釈。バーティミアス視点のときは文章が二段組になっており、下の狭い段に注釈が入っています。注釈は何気ない情報が多いんですが、さらっと伏線が入っていることもありなんだかんだでしっかり読んでしまいます。本筋とは関係ない注釈でも、バーティミアスの独特のユーモアが込められていて笑えます。

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『森の魔獣に花束を』小木君人

森の魔獣に花束を (ガガガ文庫)

病弱なのに跡取りの試練として、森に入らなければならなくなったクレヲ。そこで出会ったのは植物の魔獣。彼女に食べられないために、クレヲは自分を好きになってもらおうと画策する。

まず何をおいてもロザリーヌがかわいいです。生肉を食べたり人間を襲ったりするんだけどとてもかわいい。

人ではないけれど人ではないからこそ素直なところがあって、ときおり見せるデレにきゅんきゅん来てしまいます。

ヒロインが一人しかいないのに、ロザリーヌのかわいさがとどまるところを知らないのでちゃんとライトノベルになっています。

ロリショタのかわいい恋愛はいいですね。

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『狐の嫁入り 再会したあやかしの彼は大切なことを思い出させてくれました』鳴澤うた

狐の婿入り 〜再会したあやかしの彼は大切なことを思い出させてくれました〜 (DIANA文庫)

いわれのないトレパク疑惑に巻き込まれ、誹謗中傷に疲弊してしまったイラストレーターの咲良。そんな中、祖母のけがで祖母の所有する山の見回りを頼まれる。そこで出会ったのはひとりの青年だった。どうやら彼の本性は狐で、咲良は彼とかつて結婚の約束をしたという。

狐の青年が咲良に尽くすのは、かつて咲良と出会ったことで自分の行動を変えられたこと、そして咲良自身にプロポーズされたことがきっかけで、好きになってしまうのも納得がいきます。

また、咲良も彼に口説かれてまんざらでもないことが早い段階でわかるので、ぐいぐい来られてもあまり怖さがないんですよね。

珍しいくらい優しく紳士的な狐。こんな狐に口説かれたらそりゃ好きになってしまいます。

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『アナンシの血脈』ニール・ゲイマン

アナンシの血脈 上 (角川文庫)

チャーリーの父が死に、チャーリーは自分の父親がクモの神アナンシだったことを知る。自分の兄弟がいると言われ、チャーリーは兄弟、スパイダーを呼び出す。しかし、スパイダーは不思議な力でチャーリーの人生をめちゃくちゃに……。

アフリカに伝わる蜘蛛神の血を引く兄弟が、てんやわんやな展開になるファンタジー。兄が本当にろくでもないけど笑って楽しめる作品です。

終盤の幻想的な展開も個人的には好きです。細かいことを気にせずに読む本。

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『霧の日にはラノンが視える』縞田理理

霧の日にはラノンが視える(1) (ウィングス・ノヴェル)

第七子の呪いを解くため家出してロンドンに向かったラムジー。そこでジャックという青年に拾われる。だがジャックの仲間が殺人を犯し、ラムジーは奇妙な事件に巻き込まれていく。

ロンドンに暮らす妖精たちを描いた現代ファンタジーです。妖精たちはもうひとつの世界からやってきており、現代世界と妖精世界のつながりが作品のテーマになっています。

展開が早くても、お人好しなラムジー、リアリストだけれど情に厚いレノックス、クールで理性的なジャック……とすぐキャラクターが把握できます。

特殊な世界観も、話を追ううちに自然と理解できるので説明不足に感じませんでした。

総合的にすごくまとまりがいいです。それでいて、世界観にオリジナティがあります。

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『ワルプルギスの夜、黒猫とワルツを』古戸マチコ

ワルプルギスの夜、黒猫とダンスを。 (一迅社文庫アイリス)

新しい靴を手に入れたら、わがままな魔女ベファーナと体が入れ替わってしまった主人公、仮の名はルナ。元の姿に戻るためには、ワルプルギスの夜、黒猫とダンスを踊らなくてはいけないらしい。ダンスが魔法の力を持つ世界で、ルナはベファーナの使い魔、黒猫のノーチェとともに奔走する。

踊ること、魔法を使うことがルナ自身の心理に密接につながっていて、いい意味で世界が狭いというか、どんどん内面世界を掘り下げていく面白さがあります。

踊ることによって発動される魔法のシーンがその象徴で、ダンスの描写とともにルナの心情が示されています。

主人公の相棒であるノーチェのヘタレっぷりもかわいいです。猫耳イケメンヘタレって属性を盛りすぎだけど本当にかわいいです。

 

『フィーヴァードリーム』ジョージ・R・R・マーティン

フィーヴァードリーム〈上〉 (創元ノヴェルズ)

事故で船を失った船長アブナーは、謎の富豪に出資を持ちかけられる。彼は船を作り、共同経営者になりたいと言う。「フィーヴァ―ドリーム」と名付けられた船は旅立った。しかし、富豪ジョシュア・ヨークには秘密があった。

 

この作品の舞台は奴隷制時代のミシピッピ川です。黒人奴隷は容赦なくこき使われ殺されています。

現実にもあった奴隷制の闇と、吸血鬼幻想の関係、そして人間と吸血鬼のバディ関係が面白かったです。

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SF

 

『スペース金融道』宮内悠介

スペース金融道

宇宙の取り立て屋ユーセフと「ぼく」。上司のユーセフにしごかれながらぼくは借金を取り立てる。植物、アンドロイド、人工生命と、さまざまな知性体からお金を受け取ろうと奔走するが……。

借金をするのが人間とは限りません。多種多様な宇宙の知性体と、彼らから借金を返してもらう工夫が楽しかったです。

個人的に好きだったのは「スペース珊瑚礁」ですね。ミトコンドリア病になった「ぼく」が謎の知性体に取り憑かれる話です。ザックとちょっと友情を結んでいるところにほのぼのしつつ笑えてしまいました。

さらに、バディがめちゃくちゃ仲悪くて面白かったです。どうでもいいことで「ぼく」をぶん殴るユーセフと、虐げられているようで意外としたたかな「ぼく」。別に仲の良くないふたりが仕事のために修羅場をくぐる、この距離感が好きでした。

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『楽園 戦略拠点32098』長谷敏司

戦略拠点32098 楽園 (角川スニーカー文庫)

人類の間では、千年間戦争が続いていた。サイボーグ兵ヴァロアは、敵が必死に守っている謎の惑星に降下する。そこでロボット兵ガダルバと少女マリアに出会い、牧歌的な生活をするようになる。しかし、この惑星には秘密が隠されていた……。

表紙左のメカ兵士と少女、そこにやってきたサイボーグの降下兵の兄ちゃん。この組み合わせ、人外好き、おにロリ好きな私にとってはクリーンヒットでした。

そんな彼らが誰もいない花にあふれた惑星で、牧歌的な生活をする……ただそれだけの作品です。

その情景がとても美しく、ロマンに満ち溢れていて好きです。こんな生活ができたら本当に幸せだろうなと思いました。

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『鉄コミュニケイション』秋山瑞人

鉄コミュニケイション(1)ハルカとイーヴァ (電撃文庫)

戦争によって人類が滅んだ未来。ロボットと暮らしている人間の生き残りハルカは、ある日自分とそっくりのロボットに出会う。彼女の名前はイーヴァ。彼女の同行者ルークとともに、ハルカたちとイーヴァは共同生活を始める。しかしルークとイーヴァには秘密があるようで……。

わりとライトノベルの「子ども」って大人びて書かれることが多いので、ハルカの子どもっぽさは新鮮でした。悪い意味ではなく、考えなしだったりいろんなものにあこがれたりする部分に自分を重ね合わせられていいと思ってます。そういう部分が逆にかわいいです。

ロボットたちもキャラクターが豊かなので、読んでて面白いです。お気に入りはアンジェラさんですかね。ああいうクールビューティ的なキャラクターに弱いです。みんななんだかんだ言ってハルカのことを思っているところが愛しいです

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『アンゲルゼ』須賀しのぶ

アンゲルゼ 孵らぬ者たちの箱庭 (集英社コバルト文庫)

内気な中学生陽菜の唯一の楽しみは、歌を歌うと現れる不思議な女性「マリア」と交流すること。そこで隣の中学校に通う尚吾と出会い、秘密を共有できる相手ができて陽菜は喜んだ。しかし、マリアには大きな秘密があった。

少年少女がえげつない戦争をさせられる話。つらいので精神的に元気な時に読んでほしいです。

読み進めるうちに、敵である「アンゲルゼ」の様子もわかってきます。残酷で気まぐれ、でもどこか純真さのあるアンゲルゼの姿が恐ろしくも美しかったです。

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『あなたのための物語』長谷敏司

あなたのための物語

金も名声もすべてを手に入れていた研究者サマンサ。彼女は<wanna be>という仮想人格を作り、それに小説を書かせる研究を始める。しかし同じころ、サマンサが不治の病を抱えていることが判明。死の恐怖から仕事に打ち込むサマンサのために、<wanna be>は彼女のためだけの物語を描く。

サマンサの役に立ちたいのに、実験道具の枷がはめられた<wanna be>には物語を作ることしかできません。その葛藤が切なかったです。

それでも全力を尽くして「何かお役に立てますか」と言い続けた重み。定型文なんかじゃなくて、それは<wanna be>の存在意義だったんだなあと思います。そして存在意義を与えてくれた人を好きになってしまうのは当然のことですよね。

人工人格ゆえの愛し方しかできない姿が悲しかったです。

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『世界の終わりの壁際で』吉田エン

世界の終わりの壁際で (ハヤカワ文庫JA)

災厄が予言されている日本。一部の人は壁の中で守られ、それ以外は壁の外で細々と暮らしていた。ネットゲームで賞金を稼ぐ片桐は、雪子というアルビノの少女と謎の人工知能に出会う。

人間に近づけば近づくほどポンコツになっていくという新しい人工知能モデルを示しています。赤ちゃんみたいだな……。

そんなコーボが片桐と友情をはぐくんでいくのがよかったです。素敵なカバーを買ってもらえるといいですね。

コーボだけではなく女性陣の強さも良かったです。肉体的であれ頭脳的であれ女性がガンガン戦っていく展開好きです。

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『猫の地球儀』秋山瑞人

猫の地球儀 焔の章 (電撃文庫)

「天使」が滅び、知性ある猫たちが暮らしているスペースコロニー、トルク。スパイラルダイバーの焔(ほむら)は、最強の名を手にした後、名前も知らない黒猫に敗北する。黒猫は「スカイウォーカー」と呼ばれる、猫の魂が行きつく場所、「地球儀」を目指す存在だった。

登場人物は全員猫で、電波を飛ばすひげを持ち、その電波でロボットを操って文明を成り立たせています。表紙の美少女ももちろん猫。

主食はゴキブリとネズミ、ロボットの肩に乘って移動、独特の宗教観……などなど、「もしも猫が文明を持ったとしたら」という社会が丁寧に描かれています。

天才と天才の友情を描くブロマンス小説でもあります。

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『ビスケット・フランケンシュタイン』日日日

ビスケット・フランケンシュタイン (メガミ文庫)

体の一部が謎の物質に置き換わる奇病が蔓延する世界。患部をつぎはぎにした人形は、自我に目覚めた。ビスケという名を得た怪物は、徐々に荒廃していく世界をさまよう。生まれてきた目的を求めて。

タイトル通り、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』がオマージュ元になっています。

創造主に愛されず、世界をさまようところ、「なぜ生まれてきたのか」を思い悩むところ、そして「人間性」を獲得するところは、もともとの『フランケンシュタイン』を踏襲していて面白かったです。

つぎはぎの怪物が動かす悲しくグロデスクな物語でした。

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『人間たちの話』柞刈湯葉

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)

姉の子を引き取った学者が地球外生命体の研究と向き合う表題作ほか、雪に覆われた日本で南を目指す男と少年、相互監視が行き届いた世界で楽しく暮らす人々、どんな宇宙人たちにもラーメンを提供するこだわりのラーメン屋などを描いたSF短編集。

「宇宙ラーメン重油味」は、スペースオペラ的な世界観でラーメン屋を営む男性の物語。宇宙人たちは人間とは食べるものが違うため、重油やシリコン、果ては多種多様な有機物の混ざったスープなどを提供しています。

ストーリー上はメシテロ作品のはずなのに、読者である人間にとっては何もおいしそうではないところがちぐはぐで面白いです。

そして店主の揺るがぬプロ意識はお仕事ものとしてもかっこいいですね。

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『101メートル離れた恋』こまつれい

101メートル離れた恋 (講談社ラノベ文庫)

男子高校生のユヅキがある日目覚めると、セブンスというオートマタになっていた。そこは現代社会に似ているが、魔法に満ち溢れた世界。オートマタとしてレンタルされ、男性と性行為を行うセブンスは精神をすり減らしていく。そんな中、セブンスはイチコという少女にレンタルされ……。

主人公が「男子高校生のユヅキ」と「女性型オートマタのセブンス」の間で自我が揺らいでいるところがTSF的に興奮します。

ユヅキは男子高校生なのでかわいい女の子にちょっと優しくされるだけで心惹かれてしまいますし、オートマタのセブンスは過酷なレンタル生活の中で「友達」として接してくれるイチコが大好きになってしまいます。シーンによってどちらの性別が浮かび上がってくるか変わるところが最高。

TSものとしてもアンドロイドものとしてもかなり癖のある結末なのですが、私は好きです。

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『人類は衰退しました』田中ロミオ

人類は衰退しました1 (ガガガ文庫)

人類最後の最高学府を卒業し、故郷に戻ってきた「わたし」。そこで調停官という仕事に就くが、実質お飾りの役職らしい。調停官の「わたし」は今地球を支配する新人類、「妖精さん」にコンタクトを取り、交流していくが……。

「わたし」が現人類、妖精さんたちと触れ合い、高度な建築物や疑似生命を生み出すその技術力にビビり、めちゃくちゃになってしまったペーパークラフト世界を呆然と見つめるのは面白かったです。

「わたし」の反応も根暗な人見知りではあるものの、人間らしくて共感できるんですよね。楽な仕事をしたい、責任は取りたくない、でもある程度のモラルはある、というキャラクター造形が好きです。

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現代・日常

 

『家電彼氏』雪ノ下ナチ

家電彼氏 (ビーズログ文庫アリス)

大学進学をきっかけにひとり暮らしを始めた塔子。しかし家に置いてある、体重計や電子レンジ、掃除機が勝手にしゃべり始める。彼らは塔子の彼氏面をし出し、何かと塔子の私生活に口を出すようになる。塔子は個性豊かな家電たちに翻弄される毎日を送る。

イラストには美麗な擬人化キャラが添えられているんですが、あくまで本文中では家電は家電であり、人間の姿をしていません。

つまり塔子は文字通り家電に彼氏面をされています。

ある意味人外×人間ものだと言えるのかもしれませんが、相手が家電なのでロマンチックさのかけらもありません。塔子に彼氏っぽいものができそうになると「家電に例えるとどんな感じ?」と聞くし、機能をディスると機嫌を損ねます。

トンチキ系人外ものとしてはおすすめです。

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『先生とそのお布団』石川博晶

先生とそのお布団 (ガガガ文庫)

売れないライトノベル作家、石川布団。人の言葉を理解する猫「先生」とともに、今日もひたすら小説を書く。打ち切り、出版、また打ち切りと、出口の見えない戦いに疲弊していく布団だったが……。

売れない小説家と対話してくれる猫がかわいいです。こんな猫がいてくれたらいいですね。

私小説に「どのくらいまで本当なのか」と聞くのはやぼだから置いておいて、作中に特別悪い人が出て来ないのがよかったです。

布団に冷たくする編集者たちにも、レーベルを守るためには、売れない小説ばかり出していくわけにはいかないという事情があります。誰が悪いわけでもないのにうまくいかないもどかしさが面白かったです。

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『ヴァンパイア・サマータイム』石川博晶

ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫)

吸血鬼と人が共存する世界。両親の経営しているコンビニで働くヨリマサは、毎日紅茶を買いに来る吸血鬼の少女が気になっている。会話するようになったふたりは、小さな事件を経て仲良くなっていく……。

ボーイミーツガール、異種間の恋と、直球なストーリーであるこの作品ですが、まずお勧めしたいポイントは文章がべらぼうに上手いこと。

美しいけれど自然で、きざな感じがしない。ライトノベル作家の中でも文章の上手さはトップクラスになると思います。

吸血鬼と人間が共存する世界で、本来交わらないはずの生活が混じり、また離れていく切なさが面白かったです。

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『ベルカ、吠えないのか?』古川日出男

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

第二次世界大戦中、キスカ島に取り残された4匹の軍用犬。彼らはそこから子孫を増やし、世界中に広がっていく。一方で、ソビエトが滅んだロシアでは、ある老人が、犬とともに何かを始めようとしていた。

この本の最高なところは、犬が主人公なところですね。人間の物語もあるけれど、それはおまけにすぎません。

主人公が犬なので、人間の倫理観にとらわれず、自分の本能と欲望に従って行動する姿が本当に楽しいです。

私のお気に入りはアイスです。彼女(雌犬なので彼女)は飼われていた家から脱走し、野犬となってアメリカの街を恐怖させます。でもそこに悪意はなく、はっきりとした生存欲求だけがあります。それがすがすがしくて大好きです。

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以上です。興味があれば読んでみてください。